新国立競技場の提案が14日午後2時に公表されました。参加したのは、隈研吾氏と大成建設のグループ、伊東豊雄氏と竹中・清水・大林JVの2グループでした。(審査結果のレビューについてはこちら)
JSCのホームページでデザイン案が公開されています。(リンク先はこちら)
審査の公平さを期するために、提出された技術提案書の応募者名は公表されていませんが、隈研吾氏と伊東豊雄氏のこれまでの作品傾向から推測は可能だと思われます。(隈氏の作品紹介はこちらの記事、伊東氏の作品紹介はこちらの記事)
このデザイン案に対しては、国民からも広く意見を求めるということですので、このブログでは、2つのデザイン案をできるだけニュートラルに比較してみたいと思います。
提案書だけでもA者は48ページ、B者は50ページありますので、2つのデザイン案の比較ポイントとして、まず、それぞれがどう「日本らしさ」を表現したかに注目してみました。
目次
1.A者デザイン案の「日本らしさ」
出典:JSC
A者の外観です。木と緑が融合したデザインです。屋根は木と鉄のハイブリッド構造で屋根の表面材は金属製です。
出典:JSC
「日本の伝統的な木構造を現代の技術で甦らせ、世界に向けて発信」というのがA者のデザイン的なコンセプトになります。
出典:JSC
こうしたコンセプトで軒庇の深い陰影により「和」の表現をつくりだします。軒裏には法隆寺五重塔の垂木をイメージさせるような木製縦格子ユニットが取りつけれられ、日本の伝統的な「縁側空間」を創出します。
屋根の断面とディテールのイメージです。下図のライトグレーに塗られた部分が「鉄」です。
オーソドックスな「和」の表現で、どちらの建築家かはすぐにわかりますね。
参考記事(ヒント)
【新国立】隈研吾氏の代表建築20選 /「和の大家」による革新的作品
次は、B者デザイン案です。
2.B者デザイン案の「日本らしさ」
出典:JSC
B社の外観です。上図の中央は「情熱の赤」のフィールドが見えています。屋根は鉄骨造で屋根の表面材も金属製です。
出典:JSC
外周部の大柱は「純木製」です。この大柱がポイントのようです。「純木製の列柱に浮かぶ白磁のスタジアム」がデザインイメージです。
B者の案では、この大柱が「日本らしさ」を表現しています。
出典:JSC
この大柱は「祝祭空間を象徴する木柱」として計画されています。日本では伝統的に「柱をたてる行為」に象徴的な意味を見出してきたとし、諏訪大社の御柱などの事例をあげています。そしてこの伝統は縄文にはじまることが示唆されています。これがB者のデザイン的なコンセプトになります。
出典:JSC
木柱のスケール比較図です。左下の人の大きさと比べるといかに大きな柱であるか分りますね。あまりこうした建築表現は見たことがありませんが、免震構造によってこの構造を実現していると思われます。
諏訪大社の御柱ともスケールが比較できます。諏訪ということでどちらの建築家かが推理できるかもしれません。
参考記事(ヒント)
【新国立】伊東豊雄氏の代表建築20選 / 世界的建築家による革命的作品
それぞれの「日本らしさ」のポイント
A者、B者とも「木」を使って「日本らしさ」を表現しています。
かなり単純化してそのデザイン傾向を図式的にレジメますと、A者は「弥生的な洗練さ」、B者は「縄文的なダイナミックさ」をそれぞれの「日本らしさ」の表現に内包しているのではないかと思います。
現在の段階では、それぞれのグループが自分たちの思う「日本らしさ」を新競技場にしっかりと表現してきたとは言えそうです。
正直な感想を言いますと、どちらの提案が選ばれるのも「あり」だと思います。
その他の提案内容は?
技術提案書では、デザイン案の他にも様々な提案が公開されています。(リンク先はこちら)
そちらもポイントだけを少しチェックしたいところですが、かなり盛りだくさんの内容となっていますので、随時、ポイントをアップします。(スタジアムの躍動感や快適性を比較した記事はこちら)
その前に、少し視点を変えてこの2つの案がどう審査されるのか見てみましょう。
どう決まるの?
提出された技術提案書をベースに綜合的な審査がなされます。
大きな指標としては「必須項目」と「評価項目」の2項目があります。
必須項目では、要求水準書の基礎事項を満たしているかチェックされます。本日、2案とも公表されましたので、隈氏の案も、伊東氏の案も必須項目を満たしていたと判断されます。
評価項目では、予め決められた評価基準に沿って、技術提案書に点数がつけられます。加点方式です。この合計点と国民やアスリートなどの意見を参考に総合的に決められると推測されます。綜合的にというところがポイントです。
では、具体的に評価項目の採点方法を見てみましょう。
3.2つの案はどう審査されるのか
こうしたコンペやプロポーザルでは、見た目のデザインで決まってしまうように思われますが、実際には、細かく採点基準が決められています。
評価項目の採点方法
評価項目の採点は、技術提案書委員会で作成された「求める技術提案書及び審査基準に
ついて」というペーパーに基づいて採点されます。
配点は、業務の実施方針が20点、コスト・工期が70点、施設計画が50点の140満点です。
いわゆる建物の設計やデザインは50点です。デザイン案として注目しました「日本らしさに配慮した計画」は140満点中、10点しかありません。
この配点から分るように、今回の公募では、チームの総合力が評価されることになります。一芸に秀でるよりも、バランス良く得点することが重要になります。
配点の内訳を見てみましょう。
http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/Portals/0/shinsaiinkai/20151113_sinsaiinkai5_sankousiryou1.pdf
抜粋しますと以下のようになります。
【業務の実施方針】
・業務の実施方針 20点
【コスト・工期】
・事業費の縮減 30点
・工期短縮 30点
・維持管理費抑制 10点
【施設計画】
・ユニバーサルデザインの計画 10点
・日本らしさに配慮した計画 10点
・環境計画 10点
・構造計画 10点
・建築計画 10点
この評価項目ごとに、委員会により系数つきの評価がなされるわけです。各項目に評価の係数をかけた点数の合計が得点になります。
綜合的に審査はされるというところがポイントですが、得点の高いチームが決定的に有利です。
系数の表です。
全体的には「新国立競技場整備の基本的考え方」に照らし合わせて評価されます。
3つの大きな考え方があり、内容的には次のような感じです。
【新国立競技場整備の基本的考え方】
○ 人にやさしく、誰もが安心して集い、競技を楽しむことのできるスタジアム
○ 周辺環境と調和し、最先端の技術を結集し、我が国の気候・風土・伝統を現代的に表現するスタジアム
○ 地域の防災に役立ち、地球全体の環境保存に貢献するスタジアム
こうした3つの大きな考え方に基づいて、国民・アスリートの意見を参考にしながら、技術提案等審査委員会で総合的に審査されるものと推測されます。
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これまでに新国立競技場のデザインをめぐって登場した5人の建築家の紹介記事です。
審査結果のレビュー記事です。
隅研吾氏のこれまでの作品紹介記事です。
伊東豊雄氏のこれまでの作品紹介記事です。
続きのエントリーです。スタジアムの躍動感や快適性を比較した記事です。
それぞれの案の維持管理費についてチェックした記事です。
歴代のオリンピック競技場10作品の事例紹介記事です。ザハ案の印象が強かったため、ザハ案との比較されることになると思いますが、既存の競技場デザインとの比較も重要だと思われます。
再検討にあたって行われたアンケート調査のリンク先などについての記事です。
ザハ・ハディド氏の建築デザインももう一度ふり返ってみたいところです。