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【新国立】「和の大家」が「世界的建築家」に勝利した理由(審査講評を徹底検証)/ 隈研吾氏案と伊東豊雄氏案の比較レビュー(その5)

本日午前11時に隈研吾氏グループのA案が選ばれました。

新国立競技場A案

 出典:JSC

すでに発表されている総論的な評価ポイントは次のような内容です。

  •  日本らしさや木材の活用方法などで環境に配慮した点
  • オリンピック、パラリンピックの後にも防災の拠点とてい活用できる点

 審査員の合計点ではA案がB案を上回り、それがそのまま結果となりました。A案が610点、B案が602点です。 

このエントリーでは、あらかじめ決められた9つの公式審査テーマををふり返りながら審査結果をやんわりと検証してみたいと思います。

また、このブログでは独自に5つのテーマから2案を比較検証してきましたので、そちらの切り口からも簡単にふり返ってみたいと思います。

  

目次

 

 A.審査結果

JSC発表の審査結果のページです。

JSC審査結果

審査結果

f:id:hamada_ichi:20151222161159j:plain

出典:JSC

 9つの審査テーマについて、7人の審査員に採点されました。4項目でA案がB案を上回り、5項目でB案がA案を上回っています。

注目すべきポイントは、A者が「実施方針」と「工期短縮」のテーマでB者に決定的な点数差をつけていることです。特に「工期短縮」でA者が177点に対し、B者150点となり大きな点差が開きました。

反対にB者は「建築計画」でA者に圧倒的な点数差をつけましたが、前段でつけられた差を埋めることができませんでした。

計画案的にはB者といった内容ですが、総合的なチーム力・体制でA者に軍配が上がりました。コンペ勝負だった場合はB者の勝利ですが、今回のようなプロポーザル提案形式のデザインビルドですとA者の勝利になります。

 

審査講評(抜粋)

A者においては、業務の実施方針、工期短縮、環境計画などが評価され、B者においては、建築計画が高く評価され、維持管理費抑制、ユニバーサルデザインの計画などが評価された。(出典:JSC

  採点上はこうした理由になるかと思います。 設計案単体としては概ねB者が優れているけど、計画も含めて新国立競技場を確実に完成させる総合力はA者ですよといった内容です。

 

次は、19日のヒアリング前までに個人的に検証した内容です。今回発表された審査結果とそれほどかけ離れた内容ではなかったように思います。

 

 B.9つの審査テーマによる検証

 あらかじめ設定された審査テーマとは以下の9つの内容になります。(括弧内は配点で140点満点です。 )

 

1.業務の実施方針(20点)

 実施方針では、施設整備の基本的な考え方(所信表明のようなもの)やチーム編成、各担当者の実績、資格が記述されます。

ポイントを絞ってスタジアム経験実績の表現を見てみましょう。なぜスタジアム経験を重視したかと言いますと、設計建設期間が極めて短いからです。つまり技術や経験の蓄積が作業効率に有効に働きます。

両者ともスタジアム建設の経験者がこのプロジェクトに携わることが記述されています。提出者名を特定できないよう具体的な施設名は書いていませんが、B者には共同企業体全体での具体的は実績数が書かれています。設計が15件、施工実績が22件です。A者に具体的な実績数は書かれていませんので、どちらがスタジアム設計・建設に関わる技術を蓄積しているか判断できませんでした。

B者は共同体で3工区に分けた点がありますので、経験とプラマイでイーブンとしました。

参考:A者実施方針(1/6) / B者実施方針

 

2.事業費の縮減(30点)

 総工費はA案が1490億円、B案が1497億円となり、A案がB案より7億円安いので、この事業費を評価すればA案の得点が高くなります。30点の配点ですので大きいですね。

縮減の内容的には、設備や外構を除いた屋根やメインスタジアムの本体工事では、B案の方がA案よりかなり安くあげていますので、B案の方が本質的なコスト縮減だとは思います。つまり建築の躯体量を減らしています。(かなり大事なポイントです。)

ザハ案以後の流れで、より本質的な躯体削減に踏み込んだB案のポイントが高いと思いますが、日本では入札が伝統的に行われてきた評価もありますのでイーブンとしました。

参考:2案の「ポスト五輪の視点」と「コスト縮減」を確認


3.工期短縮 (30点)

 工期については、共に完成時期は同じです。工期の内訳が少し違っています。

A案の方がB案より、設計期間は2ヵ月短く、工事期間は2ヵ月長いです。逆の言い方をすれば、B案の方がA案より、設計期間は2ヵ月長く、工事期間は2ヵ月短くなっています。ヒアリングで、A案には「工事を2ヵ月短くできるか」という質問があるでしょうし、B案には「設計期間を2ヵ月短くできるか」という質問があったのではないかと推測されます。そこでの答えが得点に左右すると予測しました。ヒアリングの内容が分りませんのでとりあえずイーブンと個人的には採点していました。

 参考:A案工程表 / B案工程表

 ところが、実際はこのテーマで大きく点数が開きました。27点開いています。審査員ひとりあたり3点~4点の違いですので決定的な違いでした。JVという体制で評価されてしまったということでしょうか。

正直な感想では、実施方針と工期短縮で、ここまで点数が開く理由がもうひとつ分りません。各方面の検証も待ちたいところです。(工期短縮27点差の検証はこちらの記事

 

ここまでで、140満点中80点です。ほぼ、このテーマまでの得点で勝敗は決まってしまいまいした。

 

4.維持管理費抑制(10点)

維持管理では、木材や植栽を建物内に多用しているA案が不利になります。

また、B案では維持管理費の試算やザハ案に比べての維持管理費の削減額を算出していることに対し、A案では数字的なことにはほとんど触れられていません。追加資料やヒアリングで答えた可能性はあります。

A案の方がコンコース面積は多いように見えますが、五輪後の運用では低層部だけの利用が可能とした説明がありました。

こうした点を差し引きしても「維持管理抑制」というテーマではB案の方が得点が高いと感じました。

参考:都民が気になる「維持管理の考え方」を検証 

 

5.ユニバーサルデザインの計画(10点)

ユニバーサルデザインについては、表現は違うもの、それぞれ世界最高レベルを目指して丁寧に考えられていました。ただ、B案の方が最新のユニバーサルデザインの知見が多く取り入れられておりB案のポイントが高いとしました。

参考:A案ユニバーサルデザイン(1/3)  / B案ユニバーサルデザイン

 

6.日本らしさに配慮した計画(10点)

 「日本らしさ」については、2つの案ともそれぞれの「日本観」を案に落とし込んできていますので、これもイーブンといったところではないかと思います。

参考:まずは2つのデザイン案の「日本らしさ」の違いに注目

 

7.環境計画(10点)

記述する内容は「明治神宮外苑との調和」と地球環境に配慮する「環境負荷軽減策」です。

外苑との調和は2案ともそれぞれの内容を考えていましたし、環境負荷軽減策は、熱負荷の軽減や自然エネルギーの活用といったメニュー的な内容になりますので差がつきにくいのではないかと思います。よって、このテーマもイーブンとしました。

 

8.構造計画 (10点)

 A案は制震構造、B案は免震構造です。専門的知識が特に必要とされるテーマでもあり、ヒアリング前日の18日は採点保留としていましたが、A案の制震構造のオイルダンパーが外周部のSRC柱に作用していることに対して構造的な明快性に欠けるとの指摘もあるようです。


9.建築計画(10点)

 建築計画には、観客席計画や動線計画、防災計画など見ていくべきポイントはたくさんあります。観客席計画では、五輪後の8万人増席の考え方に違いがありました。下段ではB案の観客席の方が角度は急でした。メディアではこの辺りのポイントはあまり議論されなかったのではないかと思います。

また、A案はスタンドは3段で、B案は2段ですが、サッカー団体から3段の方が良いという意見が出たそうです。ポスト五輪を考えますと、B案の方がサッカー関係者からは好まれそうな感じもしますが詳しい意見を知りたいところです。

参考:2案の「ポスト五輪の視点」と「コスト縮減」を確認

 

ここには書きませんでしたが、重要なポイントとして「人工地盤」があります。今回の要綱では、期限内の確実な完成と都市計画的な観点から、ザハ案での人工地盤の考え方が踏襲されています。*1

この人工地盤については、A案はわりとザハ案そのままなのに対し、B案は地上部も庭園にしたり、光や風や水が入るように人工地盤に開口部を開けたりしています。得点的にはB案のポイントがやや高いように思いました。

実際にこの新競技場をつくった時には人工地盤が議論を呼ぶ可能性がありますので、実際の設計では最新の注意で計画して頂きたいものと考えます。*2

 

 個人的な採点

個人的な採点では、4項目でB案がA案を上回っていました。

実施方針と工期短縮でこれだけの差がつくことは予想外でした。この2つのテーマでこれほど点数差がつくことがなければB案が選ばれていたと思います。それだけ接戦した勝負だったということです。

個人的な予想としては、審査員の採点はB案が上ではあるが、国民・アスリートの意見や総工事費の安さを総合的に鑑みてオーソドックスなA案ということではないかと思っていました。結論的には、採点・総合的評価ともにA案という結果になりました。

 

次は、2つのデザイン案が公開されている期間中、個人的な視点に基づいて比較レビューを行っていましたのでその簡単なまとめになります。

 

C.5つの独自の切り口による検証 

このブログで設定したテーマで見ていきましょう。ヒアリング前日まで6つのテーマで比較してきました。

1.「日本らしさ」

ポイント的にはそれぞれの「日本らしさ」には「弥生的な洗練さ」と「縄文的なダイナミックさ」の違いがあると思いました。

archipelago.mayuhama.com

 よく読まれたエントリーでした。接戦を予想したわけですが、その通りになりました。

 

2.「躍動感のあるスタジアム」 & 3.「サスティナブルな快適性」

これは次のエントリーで比較しています。

archipelago.mayuhama.com

 サスティナブルな快適性では、 2案とも「自然風を利用した計画」で、シュミレーションはB案の方が詳細でした。

風がやんだ場合の厚さ対策が問題になると思います。

B案は下段に冷房設備があり、2段の中央が大きく空いてますのでそれほど熱はこもらないのではないかと思います。A案は暑さ対策がこれからの課題だと思います。

 

3.「維持管理の考え方」

次のエントリーで比較しています。

archipelago.mayuhama.com

 これは明らかにB案の方が優れています。こうしたエントリーも公開しましたがアクセス的にはほとんど関心がないテーマでした。

 

4.「ポスト5輪の視点」 & 6.「コスト縮減」

次のエントリーで比較しています。

archipelago.mayuhama.com

 A案は防災的な考え方を評価されたということもありますが、公開期間中にあまり議論されることのないテーマだったように思いますのが、少々残念です。

 

「負ける建築」の勝利

個人的な印象論としては「負ける建築」が勝利したという感じを持っています。

「負ける建築」とは隈研吾氏の建築思想の中心的なテーマです。ひと言でいうと「受容する建築」ということだと思うんですが、そうした建築が「天才的に発想された建築」よりも総合的に評価されたということではないかと思います。市民の意見も審査員に影響するところがあったのではないでしょうか。*3

負ける建築

負ける建築

 

 代表的な著作「負ける建築」です。

 

 ようやく、A案、B案の提出者が特定されましたので、ふり返り的に、次のパートでそれぞれの代表作品紹介のリンクをあげています。

 

D.隈氏と伊東氏のそれぞれの作品紹介  

隈研吾氏の作品紹介記事です。

archipelago.mayuhama.com

「和の大家」としてA案との共通点が幾つも発見できるだろうと思います。「負ける建築」についても触れています。

 

伊東豊雄氏の作品紹介記事です。

archipelago.mayuhama.com

天才的な建築発想や諏訪出身の世界的建築家として正統的な日本に拘る姿勢が伺われます。単なる「スピリチュアル」ではないんですね。

(隅氏に決まってから伊東氏のページへアクセス急増という不思議な現象が起こっています。)

 

結び

ネガティブなニュースが多くなりがちな建設業界にとって、今回の2つの案の公開は、イメージアップのいい機会になったのではないかと思います。特に、普段建築に関心のないような若い人たちが2つの案を興味を持って見ていたことが印象に残りました。*4

選ばれたA案については、今後の設計で改善されるとは思いますが、提案書を見ていまして、気になった点もありますので、随時検証していきたいと思います。

 

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*1: ザハ氏が「我々のデザインに驚くほど似てる」とコメントしていますが、長く検討してきたザハ案を下敷きに要綱を作っていますのでそう思われるのは仕方ないことでしょう。ザハ氏「我々のデザインに驚くほど似てる」(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース 

*2: 人工地盤に対する学術団体の要望書:http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t211-1-1.pdf 

*3:  隅氏は「和の大家」でもあるんですが、やはり中心の建築思想は「負ける建築」だと思うんです。表向きは「日本らしさ」「木材」「環境」ですが、新国立のようないろいろな条件下で負けることができたのが本当の勝因ではないかと思います。

*4: 隅氏や伊東氏の建築家にスポットライトが当たっていますが、設計者と同様に大成建設や竹中工務店、清水建設、大林組にも同様の価値があります。実際に建築をつくりあげる専門業者の職人も同等です。慣例として建築家を代表して書いていますが、実際には「ひとつの建物」をみんなで協力してつくるイメージがあります。協力してしか建物がつくれないということが重要な点だと思います。