現在、国立新美術館で、2017年12月18日まで大規模な安藤忠雄展が開催されていました。
国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO
このエントリーでは、これまでの安藤忠雄氏の建築デザインを少しおさらいしてみました。
初期の安藤建築は、ミニマリズムの極みといった建築デザインで、その思考ミニマリストに共通するものがあり、学ぶところも多いのではないかと思います。
作品は公式サイトの作品リストからミニマリスト的建築や代表的建築を16作品を選んでみました。
個人的な見方と関心によって、三つのテーマに分けました。「ミニマリズムの建築」、「自然と照応する建築」、「挑戦する建築」の三つです。
目次
A.ミニマリズムの建築
安藤建築と言えばコンクリート打放しの研ぎ澄まされたミニマルな表現です。ミニマリストの方たちにもかなり新鮮な表現に映るのではないかと思います。
1.住吉の長屋(大阪、1976年)
住吉の長屋。世界の安藤の実質的なデビュー作で代表作です。もっともミニマリズム的傾向が強いかもしれません。正面のデザインは出入り口の開口部があいてるだけなんですね。
内部も最小限のつくりとなっていますが、ライトコート(中庭)があって狭いながらも自然が感じられる豊かな空間となっています。雨が降っている時、ライトコートを挟んで向こうの部屋に行く時は、傘をさす必要があるという粋なつくりになっています。完全に Less is more の空間です。
内部を紹介した動画です。
2.小篠邸(1976年、芦屋)
小篠邸です。芦屋にあるファッションデザイナー・ヒロココシノ氏の住宅です。これも住吉の長屋と同じく完全にミニマリズムの外観です。
出典元:http://www.hankyu-hanshin-dept.co.jp/lsnews/06/a02/00103571/?catCode=601006
最近は「KHギャラリー芦屋」として2013年から予約制で一般公開を始めたようです。小篠弘子氏の作品ギャラリーです。下記サイトから申し込みができます。
ASHIYA GALLERY | KH GALLERY | KOSHINO HIROKO
名作と言われながら、個人住宅であるためになかなか見れなかった建築だけに、建築愛好家からするとまたとない機会です。阪急バスの「奥池」というバス停の近くです。芦屋川からもJR芦屋からもバスが出ています。
関連記事です。
【動画】小篠 弘子 絵筆で紡ぐアートの世界 小篠弘子(コシノヒロコ)さんと「KHギャラリー芦屋」を独占取材! | 阪急阪神百貨店・ライフスタイルニュース
3.六甲の集合住宅(1983年、神戸)
この作品で安藤忠雄氏の評価は完全に定まりました。両サイドの壁が立ち上がっているデザインは、安藤建築の中ではやや違った雰囲気の作品かもしれません。ルイス・カーンのソーク研究所の影響があるかも知れません。*1
安藤氏はル・コルビュジェの作品集を買って独学で建築を学んだというエピソードが有名ですが、コンクリート打放しはルイス・カーンに影響を受けたという話もあります。
内部はミニマルなデザインです。安藤氏は、時代的位置づけとしてはポスト・モダンの建築家としてカテゴライズされることもありますが、ミニマル・アートに近い建築です。それは、もともとミニマル・アートが工業製品や近代建築から影響を受けたこととも関係しています。
TIPS:ドナルド・ジャッド(Donald Clarence Judd)のミニマル・アート
ちなみに、ミニマル・アートにはどのようなアーティストがいるのでしょうか。フランク・ステラなどが有名ですが、個人的にはドナルド・ジャッドが好きです。
箱型など純粋な形態の立体作品は多くの美術家や建築家、デザイナーらに影響を与えている。抽象表現主義の情念の混沌とした世界の表現に反対し、その対極をめざすミニマル・アートを代表するアーティストの1人。
これは、1980年から1984年にかけて制作されたコンクリートを使ったインスタレーションです。もうこれは安藤建築ですね。
MoMAの作品紹介のページです。
MoMA | Art in the Landscape: Exploring Marfa, TX
次は、教会2作品です。
4.六甲の教会(1986年、神戸)
六甲の教会です。これもまたミニマルなデザインです。
十字架はスチールのフラット・バーを溶接しただけのシンプルさです。これこそ安藤建築ですね。
5.光の教会(1989年、大阪)
教会建築の最高傑作である光の教会です。コンクリートに十字にスリットをきって十字架型の光を入れています。
外観的にはコンクリートのシンプルな箱です。かっこいいですね。
光の教会の見学予約フォームです。
見学について of The Ibaraki Kasugaoka Church
B.自然と照応する建築
安藤建築は、自然との対比や融合や照応といった特徴があります。空や光や水や緑といった自然のエレメントが安藤建築を存在させる根本原理になっています。コンクリートであっても、即物的なコンクリートの塊ではなく、自然があってはじめて存在するコンクリート建築だと思います。
6.水の教会(1988年、北海道)
有名な水の教会です。前面のガラス建具が全部開放されて、自然と建築の境界がなくなります。
公式サイトです。
7.姫路文学館(1991年、姫路)
1989年にライカ本社ビルが完成し、大型建築が登場しはじめます。スケールにあった表現方法をいろいろとスタディしている時期ではないかと思います。
移ろいゆく自然の形象を反射させるようなより抽象的な表現が見られます。
公式ページです。リニューアルのため現在は休館中です。
8.ベネッセハウス ミュージアム(1992年、直島)
オーバルと呼ばれる部分です。楕円状に空が切り取られています。この手法はその後いろいろな建築家の作品でも見ることができます。
ローマのパンテオンも天井が円形にぽっかり空いていますが若き安藤青年は貧乏旅行でパンテオンを三度見に行ったそうです。
直島は島全体がアートの島なんですね。
ベネッセアートサイトの公式ページ です。豊島、犬島の紹介もあります。
最近、直島のホスピタリティが良くないと批判記事が話題になっていました。*2 じゃこてん食って育った人間は笑ってました。なぜかセレブと呼ばれる人たちが直島に行きたがるんですよね。それだけ期待されていると理解されます。
9.フォートワース現代美術館 / Modern Art Museum of Fort Worth(2002年、アメリカ)
ルイス・カーンの傑作キンベル美術館に隣接しています。*3 国際コンペで安藤氏が勝ちました。ルイス・カーンに匹敵する作品をつくれるのは安藤氏がもっともふさわしかったわけです。個人的には、フォートワースが安藤氏の代表作ではないかと思います。日本的なテイストも出ていて個人的には一番好きな作品です。
公式サイトです。
Homepage | Modern Art Museum of Fort Worth
動画です。感じが分かるのではないかと思います。
10.ホンブロイッヒ/ランゲン美術館 / Museum Insel Hombroich(2004年、ドイツ)
自然とアートの共生を目指したインゼル・ホンブロイッヒ美術館の新たなパビリオンです。広大な敷地や森の中にアートを探すようなコンセプトのようです。興味が湧きますね。
違う角度から見た写真です。コンクリート打放しの展示室をガラスで包むという手法は、兵庫県立現代美術館やフォートワースでも見られた手法です。ランゲンは原点であるミニマリズム的なデザインに近づいてます。
公式サイトです
この美術館を紹介した記事です。
http://aholicdays.blog118.fc2.com/blog-entry-168.html
C.挑戦する建築
完成した建築だけを見ると、きれいな建築だなとなりますが、デザインした本人からすると、今までにない新しい表現を獲得するというものすごい格闘心があったと思うんです。つまり、安藤氏は作品をつくる度に何か新しいことへチャレンジしなくてはならないという強い思いが作品から伝わってきます。
11.TIME'S (1984年、京都)
京都の高瀬川横にある京都TIME'Sビルです。手前がⅠ期で、左奥がⅡ期になります。その奥に立駐のタワーが見えているのが残念です。この建築はコンクリートブロックによる構造で、ヴォールト屋根がかかっているのが特徴です。ミニマル・デザインの傾向はやや薄れています。
この建築の見どころは、高瀬川に開かれたテラスです。高瀬川には手摺もありません。京都市役所はこうした設計は簡単にはOKしないでしょうから、相当粘り強い交渉が必要だったのではないでしょうか。橋を挟んで北側も同じようになっていますが、それができるのはこの事例があるからだと思います。前例にないことをするというチャレンジです。
12.真言宗本福寺水御堂(1991年、淡路)
水盤の下が御堂になっています。よりチャレンジングな表現への意思が見られます。この案は住職や300余りの檀家すべてが反対しましたが、高僧の意見を聞いたところ、蓮の池に入って行くという考えがいいということになり実現できたエピソードが有名です。*4
中も朱塗りで外国人見学者も興味深々です。奈良時代の僧侶 重源による阿弥陀堂も思い起こされるところです。
13.セビリア万国博覧会日本館(1992年、スペイン)
最大級の木造建築への挑戦です。コンクリート打放し建築に留まることのない表現意欲を示しています。木の組み方は、東大寺のような巨大な寺社建築を思い起こさせます。パビリオン建築のため現在はもうありません。
参考記事
モダニズムが模索した、もう一つの日本館:第2章(3)|日本建築論|五十嵐太郎|cakes(ケイクス)
14.淡路夢舞台(2000年、兵庫)
関西空港建設のために荒れ果てた土砂採掘場が水と緑とコンクリートの夢舞台に生まれ変わりました。手前の花壇は「百段苑」です。阪神・淡路大震災で亡くなられた方を慰霊する意味があるそうです。世界中の菊が植えられています。個人的にはもうひとつピンときませんでしたが好評な意見が多いです。百段苑が良かったと。
水盤の底には、貝の浜も含めて、100万枚のホタテの貝がらが敷き詰められています。職人さんが一枚、一枚、手で貼ったんですね。実際に見ますと、一枚、一枚の貝がらが違った角度に微妙な光を反射してきれいです。
完成後には工事に関わった人全員で記念写真を撮っていました。みんなで一緒につくりあげたということにこだわっていたようです。安藤氏は大震災以後は特に日本のものづくりの技術力の高さや技術者や職人の地位向上について強調しているように思います。
公式サイトです。
兵庫 安藤建築ダイジェストには夢舞台も紹介されています。
安藤氏と言えばオリーブ基金も忘れてはいけません。資金の重要さは痛いほど分かっているのではないかと思います。「何でこんなに増えてるのか、分からへんねん」
*5 と言った言葉も正直な感想ではないでしょうか。
TIPS:奈良時代のオーガナイザー 重源
資金面の調達まで募金によって行う安藤氏の取組みを建築学者の鈴木博之氏は奈良時代の僧侶 重源に重ねあわせました。重源は自ら勧進役となって当時の国家プロジェクトだった奈良の大仏堂(東大寺)の建立を推進しました。今回の新国立競技場への関わり方を見てますますそんな感じがしました。
伊藤ていじ著の『重源』についての記事です。
15.プンタ・デラ・ドガーナ / Punta della Dogana(2009年、ヴェニス)
17世紀の旧税関倉庫を美術館として改修しています。先端の三角形の部分です。外観を見る限りは安藤建築のような感じはしません。
展示室にはちゃんとコンクリート打放しの壁が挿入されています。きれいな壁です。ヨーロッパの古いものしかないようなヴェニスに、唯一と言ってもいい現代的な空間を実現しています。
東急東横線渋谷駅(2008年、東京)
渋谷駅は実際に拝見してはいませんが、ネット上に多くの意見がありました。肯定的ではない意見が多かったです。すべての作品が称賛されるというわけではないようです。
写真を見ていると不思議です。面白いですよね。 何かのたまごでしょうか? たまごには何が入っているのでしょうか?
関連図書
ビジネス書のようなタイトルも多いような感じです。
これは共著ですね。 (暫定結論:新国立競技場を考えるのに遅すぎるということはない)
建築関連記事
新国立に登場した5人の建築家のまとめ記事です。
安藤氏の会見でも触れられた槙文彦氏の作品紹介の記事です。
関連記事
スポンサーリンク
年1回以上の利用で年会費が無料になるカードも多いです。
年会費無料のカードでもキャッシュバックがあるというお得なオファーとなっています。