スクリーンが閉じられるまで誰も動かない。誰も動かないと次の回の入れ替えに困るので、映画の方で感動させすぎない細工をしているくらいだ。
前の席に若いカップルが座っていた。映画が終わり、彼氏に「DVDが出たら買おうよ、買うよね!」と耳元でささやいていた。それは先走りすぎの感想というものだろう。思ったままの感想。ネタバレなし。
基本的には日本のオヤジ殺しの映画だ。ディズニー、日本人のためにつくったんだろう?と言いたくなる。そう思ってしまうつくりこみ。アニメのDNAは日本だということをアメリカがはっきり宣言した映画。アメリカの日本からの独立宣言。アニメに限らずものづくりに関わる仕事をしていた人はそう感じたのではないか。日本人、ものづくりの世界でいままでありがとうな、これからはアメリカが頑張るからものづくりのことはまかせてくれという声がスクリーンから聞こえる。ジョブズがアップルに帰還した頃からダメリカと聞かなくなって久しい。もうダメリカなんて言えない。
日本のものづくりありがとうというねぎらいのメッセージを受けとった人はこの映画を絶賛するか降参するし、そうしたメタな情報を受け取らなかった人は、点数は高いけど感動がないフィギュアスケートの演技に対してのように微妙な反感を感じるだろう。成長戦略より道がない当国にはそれが正しい反応だと思う。純粋なエンターテイメントとして楽しむのもシンプルだ。
予備知識なしで見たのでパンフレットを買ってその場で立ち読みした。監督ドン・ホール氏の言葉として "原作のマーベル作品『BIG HERO 6』が日本のポップカルチャーに対するラブレターみたいだった" と書いてある。原作は日本へのラブレターかもしれないがこの映画は日本へのラストレターだろう?
ドン・ホール氏が "スタッフの誰もが日本のポップカルチャーや日本のアニメで見たロボットから影響を受けている" と語り、日本のロボットとアメリカのロボットの違いを指摘する。"日本のロボットは未来への鍵であり、世界をより良いところにするためのものなのです" と語る。ちゃんと分かってるんだ。日本のロボットはスカイネットにはならない。アメリカのオヤジもアトムの子だった。
ベイマックスはアトムで鉄人28号でジャイアントロボでマジンガーZでロボコンでザブングルでマーシィドッグでオーマ*1でラムダ*2だった。オヤジが見ると『ニュー・シネマ・パラダイス』のラストシーンのように見えてしまうのだ。くたびれた中年トトにとってのキスシーンは、オヤジにとってロボットが活躍し、ロボットと触れあったりするシーン。その手仕事的な切り貼り。つぎあとを隠そうともしないオマージュ。日本のものづくりへのリスペクトがロボットの描き方に象徴されている。
原作とは別のレイヤーでアメリカンに対しても同じことをしている。ET、ターミネーターT-800、スパイダーマン、その他もろもろ。映画の舞台となるのがサンフランシスコと東京(アジア)が融合したようなサンフランソウキョウ。もちろんバイアスはメインとなるマーケット寄り。 (アート本の日本版は1月下旬発売)
- 作者: Jessica Julius,Don Hall,Chris Williams,John Lasseter
- 出版社/メーカー: Chronicle Books
- 発売日: 2014/10/28
- メディア: ハードカバー
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ヒロをやさしく抱きしめるベイマックスの背後にボルテスV (コン・バトラーV ?)のキャラ時計がかかっているのが見える。どんだけ日本のアニメ好きやねん。デジタルじゃない。計算とはいえ愚直とも言える積み上げによるつくりこみ。だからこの映画を否定することは自分が見てきたものを否定するように感じた。実際、見ながら心の中でこれはあかんやろー(=ヤバイ)を連発していた。
出口付近のベイマックス宣伝コーナーにあったモニターに鉄拳氏のPVパラパラ漫画が流れていた。鉄拳氏は天才だと思う。ディズニーが鉄拳氏の作品を公式に認めている。単なるマーケティングだろうか。ぼくはこの映画はアナログ技で勝負してきたと思っている。だからオヤジがショックを受けた。ぐうのねもでない。ここまで到達されたのでクリエイティブな世界からなにか解放された気分を感じてしまったものづくり系オヤジもいるのではないか。だけどこの映画が表現したいものはまだ鉄拳氏のレベルには達していない。時間の問題だとは思う。
『ベイマックス』鉄拳「パラパラ漫画」オリジナルPV - YouTube
以上が『ベイマックス』を見た感想。ぼくの苗字が主人公と同じハマダなので絶賛方向にバイアスをかけて書いてみたというところはある。
トピック「ベイマックス」について
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