スペシャルティコーヒー。それはサードウェーブが開いた豊穣な世界。スペシャルティコーヒーは最近ではサードウェーブコーヒーと呼ばれることもある。スペシャルティコーヒーとは何か。いい豆をその産地ごとの特性に合わせて焙煎し、うまくドリップし、酸化しないうちにその場で飲まれるコーヒー。
何だか良く分からない?
スペシャルティコーヒーという分かりにくい世界
結論から言ってしまうと、スペシャルティコーヒーが何かを知るためには、スペシャルティコーヒーを飲むしかない。それが一番速い理解(understanding)だと思っていた。
でもぼくはまちがっていたのかもしれない。
というのは、先日、知人にとっておきのスペシャルティコーヒー(グァテマラ)を飲ませたところ、あろうことか、普通のコーヒーとの違いが良く分からないと言うのだ。
「よくわからん」
その知人であるA君は、ショットの追加はあたりまえの下品なほどのスタバ好き。ラテを飲みに入ったのにフラペチーノを頼んでいたこともある。すっかりサードウェーブならぬセカンドウェーブの波に呑み込まれてしまっていたという訳だ。ちなみにスタバはセカンドウェーブでブルーボトルはサードウェーブ。
A君はノームコアなミニマリストなんだけども、コーヒーの嗜好は流行の最先端という訳ではなかったんだ。
「ミニマリストならサードウェーブじゃないの?」
「ミニマリストだからサードウェーブ系男子ってことないでしょ」
ぼくはスペシャルティコーヒーがわからないと言うA君になんとかサードウェーブの波に乗ってもらおうと言葉とイメージで説明することにした。まずは基本的な用語の理解からだ。
A 知っておきたい用語を解説するよ!
最低限のほんの入り口の内容だよ。
スペシャルティコーヒーとは何か
まずは日本スペシャルティコーヒー協会の定義を見てみよう。
消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
風味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。
カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階に於いて一貫した体制・工程で品質管理が徹底している事が必須である。(From Seed to Cup)
出典:http://www.scaj.org/about/specialty-coffee
「むずかしいな」
この後にもいろいろと説明が記述してあるんだけど、抽象的な表現である。スペシャルティコーヒーを言葉にすると確かにこうなってしまうのである。しかし、この後解説する周辺の用語を理解すれば簡単に分かってしまうのである(と願いたい)。
サードウェーブとは何か
コーヒーが大量に流通して、家庭でも手軽にコーヒーが飲めるようになったのがファーストウェーブ。いわゆるアメリカン・コーヒーもこれに含まれるね。スターバックスに代表されるダークロースト(深煎り)のシアトル系コーヒーがセカンドウェーブ。エスプレッソショットを使ったコーヒーは店の雰囲気とあいまって新鮮だった。それに対してコーヒーをワインのような嗜好品として楽しもうというのがサードウェーブ。スペシャリティコーヒーですね。
日経トレンディでは2013年に記事にしていますね。
大手飲食も参入! 「サードウェーブコーヒー」って何だ? - 日経トレンディネット
缶コーヒーのジョージアのウェブサイトでは日本の喫茶店に源流があったんなんていい指摘をしているね。ブルーボトルコーヒーのCEOが日本の喫茶店を見てはじめたと言うぐらいなんだから、サードウェーブなんて言葉が流行る前から日本にはスペシャルティコーヒーはあったんです。
コーヒー業界の新潮流!3分でわかるサードウェーブコーヒー│GOOD COFFEE TIPS│ジョージア ヨーロピアン
週刊アスキーが解説するサードウェーブコーヒーとスペシャルティコーヒーの関係。アスキーにもサードウェーブが到来していたというわけだ。
知らなかった!おいしいコーヒーの深い話 誤解されたサードウェーブの真実 - 週刊アスキー
このサードウェーブのコーヒーを好んで飲む男子がサードウェーブ系男子。ぼくも良く知らないのでこれも関係記事を少し見てみよう。まとめをチラ見。辛酸なめ子氏がネーミングしたのか。なるほど。
今のトレンド「サードウェーブ系男子」ってなんぞ? - NAVER まとめ
今付き合いたいNo.1「サードウェーブ系男子」の特徴5つろいう記事。
今付き合いたいNo.1「サードウェーブ系男子」の特徴5つ - モデルプレス
サードウェーブ系男子とはネタだったわけです。なぜネタ化してしまったか考えると、おそらくサードウェーブ、つまりスペシャリティコーヒーを良く理解できなかったために思わずちゃかしてしまったのでしょう。
シングルオリジン
産地や単一の品種だけでなく、生産者の顔が見えるような農園レベルまで、より小さな単位にこだわったコーヒーのことですね。ウイスキーのシングルモルトの考え方みたいなものです。シングルモルトは同じ醸造所の樽を混ぜ合わすピュアモルトやひとつの樽からだけを飲むシングルバレルがあります。純度が高いほど有難がられる傾向はあります。かと言ってシングルオリジン最高!というわけではなく、ウイスキーに素晴らしいブレンデッドウイスキーがあるように、やっぱりここのブレンドが一番うまいわというブレンドもたくさん存在します。
浅煎り・中煎り・深煎りの違い
スペシャルティコーヒーの特徴は品種によって浅煎りを使用することです。豆のそれぞれの特徴を最大限に引き出すんですね。いわゆる普通のコーヒー(コモディティ・コーヒー)は中煎りとかスタバに見られる深煎りなので、苦みを重視した味わいになります。浅煎りは酸味のうま味になります。一般に浅く煎れば酸味になり、煎るほどに苦味になります。日本の自家焙煎系純喫茶では、コクと苦みのある中煎り、深煎りを好んできましたので、サードウェーブ系の浅煎りには、疑問を呈す場合もあります。深煎りでも中浅煎りのような酸味も出るようです。また、浅煎りはすぐに酸化して味が変化しますので、淹れたものを早く飲んだ方がいいです。味の変化を楽しむこともできます。
酸味と苦味の記事
自宅でもコーヒーを楽しみたい! 酸味と苦味を知って、焙煎所へ豆を買いに行こう - それ どこで買ったの?
酸味?苦み?それだけ?
酸味、酸味と言いますが、ただ、酸味が強いだけではなく、ジュワっとする酸味や硬質な酸味があり、フルーツやチョコレートのような甘みやフレーバーもありますので、単なる酸味ではないんですね。そのあたりがスペシャルティコーヒーの醍醐味ではないかと思います。豆の産地によっては、深煎りの方が特徴を引き出せる場合もありますので、サードウェーブが酸味だというのは必ずしも正確ではありません。
「単なるうんちくじゃないのか」
「……」
スペシャルティコーヒーが伝わらない本当の理由
頭をかかえながら、スペシャルティコーヒーがなぜ伝わりにくいのか良く考えてみた。これは構造主義だ。豆ごとに広がる豊穣な世界観への目覚めがあってはじめてスペシャリティコーヒーは理解されるのではないか? そう思って違う種類をオーダーした。
「この一杯のコーヒーを通して、エチオピアやケニアのそれぞれの大地が違う息吹となって目の前にひろがるようじゃないかい?」
「エチオピアとケニアの違いなんてわからないよ」
世界陸上を良く見ている日本人以外には、エチオピアもケニアもコスタリカも赤道直下の国ぐらいという認識しかないのであり、エチオピアにしますかケニアにしますかと言われても分からないのである。味覚の説明があったにせよ。
つまり、スペシャルティコーヒーが何か理解しても、今度はコーヒー豆の産地でつまずいているようである。ブルーマウンテンやキリマンジャロやモカやコナの違いは分かるだろうが、スペシャルティコーヒーで好まれるのは違いが分かりにくい国なのである。
赤道直下のコーヒー産地って言っても
出典:http://www.suntory.co.jp/company/quality/library/coffeebook/01.html
コーヒー豆は赤道を中心とした北緯25度、南緯25度のコーヒーベルトで栽培される。コーヒーベルトの産地によってたくさんの品種があり、酸味がとかまろやかとかそれぞれの品種の説明が書かれている。しかし味のイメージは伝わりにくい。
この多様性ある豊穣な世界をどう伝えればいいのだろう? コーヒー産地それぞれの太陽、土壌、雨、風のイマジネーションをコーヒーショップのマスターは再現しようとしているだと思う。味覚に優れた人は視覚的イメージがなくても、そのイマジネーションを捉えることができる。しかし、A君のような男には……
そこで、その国の写真のなかから味を表現するようなイメージを選んでみた。
B 多様で豊穣なスペシャルティコーヒーの世界
良く飲んでるシングルオリジン5選を視覚的イメージに変換して紹介。浅煎りから並べるよ!
コロンビア/ COLOMBIA【浅煎り】
口に含んだ瞬間から、豊かで心地よい酸が広がり、緩やかに消えていきます。コクと甘さと酸が、バランスよく織りなすことで感じる質感は、バターのように滑らか!全くもって、苦みなどのひっかかりがない綺麗なコーヒーなので、気付いたらコーヒーカップが空になっているでしょう♪
ゴールドの陽が射しこむようなこの写真のような味わいです。
ケニア / KENYA【浅煎り】
一本、筋の通った安定した美味しさ。透明感のある上質な酸と、喉の奥から湧き上がるドライフルーツのような甘い余韻が長く、ケニア・コーヒーの特徴が、あますところなく引き出されています。
ケニア側から見たキリマンジャロです。キリマンジャロといってもその範囲は広くコーヒーの銘柄的にはキリマンジャロスノートップの人気が高いです。
キリマンジャロ スノートップ - 自家焙煎コーヒー豆の販売 GreenBeans
エチオピア/ ETHIOPIA【中浅煎り】
苦みが少なく香り豊かな、まるで紅茶のような軽やかなコーヒー。口当たりはグァバやパパイヤのような南国の甘い果物を連想させ、飲んだ後はピーチのような甘い余韻が喉の奥から湧き上ってきます。
エチオピアコーヒーマップ(ルワンダ、マラウィ産も詳しいページ)
HAT de Coffee & Banana-ハーベストタイム-
グァテマラ / GUATEMALA【中煎り】
とても上品で複雑な酸を持ったスペシャルティコーヒーの神髄を実感できる素晴らしいコーヒーです。穏やかな甘さが長く続く余韻こそ、一級品の証です!
おすすめのスペシャルティコーヒー。農園によって味が変わるので、それぞれのテロワールを楽しみたい。エル・インヘルト農園が有名です。
エル・インヘルト農園の記事
「たしかにグァテマラのじゅわっとした酸味は虹のようだ」
インドネシア / INDONESIA【深煎り】
昔ながらのちょっと苦いコーヒーを愛飲される方に人気です。 当店で扱っているコーヒーの中で、一番深煎りです。とても力強くて野性的な味わいが印象的で、フレンチプレスで淹れると、カップの中にも油分がしっかりと浮き上がるほど、ボリューム満点で、ジューシーな味わいです。
「なんとなく味のイメージがわかったような」
では、スペシャルティコーヒーを実際に飲んでみよう。
大事なのはどこでスペシャルティコーヒーを飲むかだ。
有名のなのはブルーボトルだ。もともとブルーボトルコーヒーは日本の喫茶店のハンドドリップなどにインスパイアされて出来たと言われている日本の喫茶店の逆輸入ですね。
ブルーボトルコーヒーはサードウェーブコーヒーの代表的コーヒー。ブルーボトルコーヒーをチェックしてみよう。
C ブルーボトルの実力をチェックするよ
といってもフリッカーの写真だけども……
ここではハンドドリップで一杯一杯淹れてるね。ファッションもノームコア。参考になるファッションですね。ユニクロでも同じようなデニムシャツ売ってたけどすぐ売り切れる。
ブルーボトルスタッフのメガネ、ヒゲ、帽子ファッションが紹介された記事。
コーヒー第三の波、日本の純喫茶文化にインスパイアされたブルーボトル・コーヒー - NY Niche
ダブルで淹れるよ。
一気に8杯淹れるよ。インテリアの傾向もミニマリスト好みですね。
ブルーボトルではサイフォンやネル・ドリップ式でも飲めるんですね。まさに日本の純喫茶ですね。
公式サイト
「ブルーボトルって結構大きいんだな……」
たしかにブルーボトルでは紛れもないスペシャルティコーヒーがサーブされているだろう。しかし、最初のスペシャルティコーヒー体験としては、ブルーボトルは適当でないかもしれない。というのはスペシャルティコーヒーというのは、サーブする人とサーブされる人が噛みあってはじめて成立するものだと考えるからだ。だから哲学的ではあるが自分が住む町の小さなコーヒースタンドでもスペシャルティコーヒーは存在するのである。一回きりではなく関係の継続性が大事なので、自分の周囲でスペシャルティコーヒーを探すことが大事になる。一杯ずつハンドドリップでコーヒーを淹れるのは時間のかかることだし、そうした視点でファースト・スペシャルティコーヒーを味わいたい。行列の雰囲気で飲んでもスペシャルティコーヒーは味わいにくいということだ。それは清澄白河に1号店を出したブルーボトルが良く知っているだろう。
ブルーボトルの原点となった日本の喫茶店をブルーボトルのCEOジェームス・フリーマン氏が紹介している。日本の喫茶店でスペシャルティコーヒーを体験してから、ブルーボトルコーヒーを試してみるのがいいのではないだろうか。
D.ブルーボトルCEOがおすすめする日本の喫茶店
東京ばっかりだね。
カフェ・ド・ランブル(銀座)
公式サイト
ホームページスタイルの濃い内容に思わず読みこんでしまう。
「コーヒーに憑かれた男たち」は店主も含めコーヒー御三家の話。
茶亭羽當(渋谷)
公式サイト
CEOジェームス・フリーマン氏は羽當(はとう)のコーヒーを絶賛している。それほど日本の喫茶店カルチャーを敬愛しているんですね。それが日本に出店した理由でしょう。
カフェ・バッハ(南千住)
公式サイト
..:: Cafe Bach ::.. カフェ・バッハ 自家焙煎珈琲
バッハは、先日NHKの「プロフェッショナルの流儀」でもとりあげられていました。CEOは清澄白河店オープンの5日前にはスタッフと共に訪れ焙煎を見学したそうです。店主の田口護氏は著作もたくさんあり、煎り止めなどのノウハウをおしげもなく披露しています。
専門書です。サーブする側の本。追求してきたコーヒーがスペシャルティコーヒーと呼ばれるものであっただけなんですね。
どちらかというとサーブされる側の本。サーブする側とされる側、両方の視点でコーヒーを見ているのがプロフェッショナル。
以上がブルーボトルCEOがおすすめする喫茶店。それ以外も少し紹介。
丸山珈琲(軽井沢)
公式サイト
丸山珈琲 MARUYAMA COFFEE | スペシャルティコーヒー
軽井沢本店。東京にも何店か。パナマ・ゲイシャ種が飲める。飲んだことないので軽井沢に行ってチェックするつもり。新しい世代のスペシャルティコーヒー。
最近出版された本です。スペシャルティコーヒーが何か一般向けにわかりやすく書かれています。
タカムラ(大阪)
公式サイト
Coffee - TAKAMURA Wine & Coffee Roasters
各国のイメージ写真のコメントはタカムラのレビューから引用。ワインのテイスティングで鍛えた表現力に唸る。ワインの品揃えがすごい。ワインとコーヒーの二本立て。食都大阪にも東京に負けないスペシャルティコーヒーの名店がたくさんあります。基本的には常連相手でありハンドドリップの個人商店。もし自分で探す気があればすぐに辿りつけると思います。
「スペシャルティコーヒーを追求してみるか」
スペシャルティコーヒーはおいしい。追及してやまない世界がある。研究が高じて自分で淹れるようになりコーヒーショップをはじめる人も増えだしている。コーヒーの解放。それが本当のサードウェーブなんだと思う。
続きの記事
軽井沢の丸山珈琲本店にスペシャルティコーヒーをレヴューしに行った記事です。
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