ビル・マーレイ演じるボブとスカーレット・ヨハンソン演じるシャーロットはホテルの頂上部にあるバーで出会う。バーの名前はニューヨークバー。映画『ロスト・イン・トランスレーション』のワンシーン。新宿の夜景をバックにミュージシャンが生演奏。
監督のソフィア・コッポラはパーク ハイアット 東京を「一歩足を踏み入れると、まるで空中に浮かぶ島にいるよう」と表現したという。*1
パークハイアット東京の標準の客室は45㎡。時期にもよるけど1泊最低5万円~。同じ価格帯ならペニンシュラ東京の方が良いのでは?という疑問も浮かぶ。
東京別邸の視点で建物を吟味する
Park Hyatt Tokyo | Flickr - Photo Sharing!
ハイアットの上級ブランドといっても20年前の建物。建築のデザインやディテールが最新でないことは否めない。出来て20年という月日をどう考えるか。古くなったと捉えるか歴史と記憶を蓄積したと考えるか。あるいは、東京での常宿としてこれから20年通い続けるか。いろんな景色が見えてくるだろう。
常宿となると「東京での家」ということだから、どんな建物か良く知っておかなくてはならない。別宅という所有的な視点で妄想すると実に贅沢な家に思えてきた。欲望は対象を変質させる。20年の歳月も気にならなくなるから不思議だ。
shinjuku sunset | Flickr - Photo Sharing!
パークハイアット東京が入る東京パークタワー。丹下健三の設計により1994年に完成。丹下健三は近くの東京都庁や代々木体育館の設計者。これらの建物はどことなく威圧的だけれどもパークハイアットや東京カテドラルはどこか女性的で優美な印象。女子力の高い丹下建築と言えるかもしれない。
塔状の直方体が三つ寄りあわさったような外観。それぞれの塔の頂部にはピラミッド状のトップライトがクイーンの王冠のようにのっかっている。西新宿というハードボイルドな場所にあるシルバーメタルの城。建築様式的にはポストモダンということになるのだろうか。
ホテルは建物の最上部39階から52階。41階のメインロビーへ高速エレベーターでアクセスすると、トップライトからの自然光がのびやかな空間をつくりだしている。日本のホテルは外資系であっても外側は日本の設計事務所が設計し、インテリアは海外デザイナーが担当することが多い。そのため外側とインテリアが別物に見える。
パークハイアット東京の場合、ピラミッド状のトップライトが外側とインテリアを一体化し、外と内の別物感が見事に消え去っている。こういうホテルは日本には少ないので海外からのリピーターも多いし、長くつきあうのにはいいのではないかと思う。インテリアデザインはジョン・モーフォード氏(Morferd & company)。
東京パークタワーの詳細なスペックが分る建築雑誌を発見。最高高さ約235m。都庁が243mなので少し低い。映画のつくりだすイメージ、ホテルのスケールやデザインから判断すると『クレア』の特集のように女子が似合うホテルかもしれない。
パークハイアット東京|東京を代表する新宿のラグジュアリーホテル
パークハイアット東京で映画のような実存に向き合う
滞在中どう過ごすか。いろいろとプランもスタディしてみたが、やはり別邸という設定なので一日ホテルで過ごすのがいいだろう。
部屋の眺め シャーロットが見た景色
Park Hyatt Tokyo | Flickr - Photo Sharing!
シャーロットのように一日中部屋からの景色を眺めて過ごす。シャーロットの部屋からは南新宿と明治神宮が見える。ハンバーグのようなかたちをした明治神宮が東京にぽっかりと浮かんでいる。明治神宮の見える部屋を指定して予約したい。
4808 there (Park Hyatt Tokyo) | Flickr - Photo Sharing!
太陽は動いているので光の状況は刻々と変化する。一日同じ景色を見て光の変化を眺めるのが贅沢だ。シャーロットのように窓際に三角座りして一日中景色を眺めて過ごそう。
シャーロットは部屋にひきこもって音声CDを聞いている。このCDはボブも購入していた。アマゾンで調べたが見つからなかった。タイトルは『A Soul's Search 』。映画で使われた部分を引用。
人生の目的を考えたことは?
これは あなたの魂の運命を探す本
でも運命の道は見いだしにくいもの
”内なる地図”とはーー
生まれる前に
それぞれの魂は すでにーー
進むべき道を選んでいるということ
生命の書、アカシックレコード……精神世界という「本質」の領域は間違いなく深いだろう。*2 シャーロットとボブは病んでいた。本当の自分と現実世界のギャップにとまどっている。世間に放り出されて、うまく距離がとれずにたちすくんでいた。そのような主体のあり方を20世紀の哲学者は「実存」といった。シャーロットもボブも自分にとって本質的なことと世間とのズレに悩んでいる。映画では「実存は本質に先立つ」んだよというプロセスを描いているようにも見える。実存が本質に先立つことで世界が動き出す。そうなの?
人のいないレストランやプールを探検する
外に出ないで一日ホテルにいるとみんな出てしまって閑散とした時がある。ホテルによってはそれが絵になる。パークハイアット東京もそんなホテルかもしれない。人のいないレストラン、人のいないプールをみはからって探検してみよう。
Park Hyatt Tokyo | Flickr - Photo Sharing!
この写真では人がいなくていい感じ。実際はいるのかもしれない。
Park Hyatt Tokyo | Flickr - Photo Sharing!
人のいないレストランや植栽のかげに小さい頃の自分がかくれんぼしているかもしれない。
家にいるようにバー を楽しむ カナッペをつまむ
Taittinger Brut Prestige Rose@New York Bar | Flickr - Photo Sharing!
パーク・ハイアット東京にはバーが二つある。ニューヨークバーとピークバー。映画に出てくるのはニューヨークバー。『クレア』のおすすめはピークバー。スタンディングながら3500円でドリンクがフリーフロー、カナッペ 7種つきのtwilighttimeという新趣向をやっているようだ。カナッペというのはリッツのことかな。東京の立ち飲みってこんな感じなんだ。フリーフローは関西方面ではノミホウということが多い。
パークハイアット東京を調べていて、映画のワンシーンを真似た写真が多いのが気になった。以下はそれに関する内容。
『ロスト・イン・トランスレーション』という形態形成のフィールド
哲学者が言語で実存を表現するように、映画のフォロワーは映画のワンシーンを真似ることで実存を表現している。世界のいろいろな実存表現をみてみよう。
お題は「存在の途方に暮れた感」を表現。
ビル・マーレイ部門
Lost in Translation | Flickr - Photo Sharing!
リンク先では部屋で映画に登場するYukataを発見した時の興奮が語られてる。途方に暮れるどころか東京旅行のうれしさが隠しきれない一枚。ポーズも違っているようだ。

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これは元ネタ。
Lost in Toronto | Flickr - Photo Sharing!
ロスト・イン・トロント。途方に暮れつつスタイリッシュ。おもしろいと思うんだけど、座る位置がちょっと違うかな。
Lost in Translation | Flickr - Photo Sharing!
ロスト・イン・ニューヨーク。首のかしげ具合からスリッパまで一番忠実に再現している。でも何か違う感じがするのはどうしてだろう。ガウンと浴衣は似て非なるものということか。NYっぽさが出すぎかな。たぶん足が長いんだと思う。
lost in Lithgow | Flickr - Photo Sharing!
ぜんぜん途方に暮れてない。迷うどころか武士道に通じている。武士道とは死ぬことと見つけたり by 葉隠。 ある意味、元ネタをこえてしまっていると言えるだろう。ロスト・イン・リスゴー。リスゴーはオーストラリアの町。
オープニングのシャーロットのお尻の大写しは3名の方が挑戦している。女子の場合は少し自分というものが出てしまっているような感じがする。いずれの写真も世間を元気に生きていそうな感じが伝わってくる。(2枚は埋め込めない仕様なのでリンク先をクリック)
スカーレット・ヨハンソン部門
lost in translation. | Flickr - Photo Sharing!
元ネタとはだいぶ違うけどニュアンスは出てるかな。
Lost In Translation | Flickr - Photo Sharing!
パンツの柄がカメラというのもフリッカーらしくていいね。
Lost in Translation | Flickr - Photo Sharing!
紺色のパンツ。そのまま撮っちゃったという感じもする。
特別編
Lost in Translation | Flickr - Photo Sharing!
クロスジェンダーでシャーロットになりきっている。撮影場所が渋谷のスクランブルだと思って良く見たら外国だった。透明のビニール傘でもないし。物事の本質をアブストラクトしているというか。実存をアートにまで高めている。
いったい何故このような形態が模写されるのか。単なる実存だけへの関心ではないような気がする。
実存だけではない何か
シェルドレイクの仮説によれば、ある場所で起こった形態や行動のパターンは、それを知っても知らなくても、時空間を超えて繰り返されるという。繰り返しが多いほど同じことが繰り返される。ある種(スピーシー)のあいだで、一度起こった形態は共鳴し続けるということだ。そのような形態形成のフィールドが行動を進化させる。*3
2002年、パークハイアット東京で『ロスト・イン・トランスレーション』が撮影され、形態形成場が出来たという仮説。
シェルドレクはこの仮説をさらに発展させる。記憶や経験は、個体の脳に保存されているのではなく、クラウドのデータ保存のように、種ごとにまとまって保存されていると提唱する。個人の脳は端末のクライアントという訳だ。
クラウドであってもデータを保存するサーバーが存在する。その置き場所は 普段意識することもないし、どこにあるのか分らない。形態形成場となったパークハイアット東京はそのような在り方に似ている 。
空中に浮かんだ島は、地上なのか地下なのか分からないけれど、見えないネットワークで世界中の種の意識を繋げている。
"『ネイチャー』からは「焚書もの」と糾弾され、『ニューサイエンティスト』からは絶賛された問題の書。"
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東京・妄想旅行 / ホテル編 1(アマン東京) - アーキペラゴを探して
*1:ホテルバーは美味しい|パーク ハイアット 東京 ニューヨーク バー|バー検索サイト[BAR-NAVI]
*2:昔流行った『聖なる予言』も同じジャンルの本だろうか。
*3:シェルドレイクの仮説は「エヴァンゲリオン」の「ATフィールド」に影響を与えている。