たのもーうと言って酒場に入門した。壁一枚を隔てて墓場と隣合わせているようなキレた酒場には通ってきた。ただ年季の入った普通の酒場には行くことはなかった。ホルモンの食べ過ぎで顔がテラテラしていたので老舗の酒場には似つかわしくなかったのである。
食事制限で体重は12キロ減り頬もこけテラテラ感もなくなった。あぶら抜けたというやつである。髪もベリーショートにした。ニット帽をかぶって老舗の酒場に入ってもすっと馴染んでしまう。調子にのっていろんな酒場をいきたおしている。酒を飲んではいけないのが信じられないくらいだ。
はじめての店でも「前にきてくれてましたかな」「あれ、こんな常連さんおったかな」という勘違いも続出中。どの店でも大将が高齢になり、記憶が曖昧になっているのかもしれないし、ぼくの記憶が不確かなのかもしれない。「あんた、前にきとったやろ」と言われれば「そうだったかもしれない」という気もしてくる。
やっぱり生ビールを飲んでどて焼きを食べたい
やはり、ビールは飲みたい。飲んではいけない、飲んではいけないので、ビンビールにしているが、調子に乗って生ビールを頼むときがある。生ビールは最低二杯は飲みたいから困るんだ。それが人情というもの。酒量が全然減らないよ。
大阪で安いところだとビールの大ビンが300円台前半。老舗はもう少し高いけれど、酒飲みが居酒屋をチェックする時のポイントなので覚えておこう。大ビン300円台前半。アテを2品頼んでも千円でおさまる。ビンビールはせんべろの必須アイテム。
食事制限があるとアテを選ぶのには困るんだ。いままで肉やホルモンしか食べなかったので何を食べるかまよってしまう。とりあえず、どて焼きだろうと思って頼んだら、どて焼きが大好物なのだが、これまでに大量に食べ過ぎたせいなのか、盛大にアレルギー反応する。しかたないので、どて焼きが鍋のなかでぐつぐつ煮えるのをじっと指をくわえて見ている。
ふと、どて焼きとスジの煮込みの違いが気になってきた。いままではただガブガブ食べていただけなので、どて焼きもスジ煮込みも違いが気にならなかったのである。肉食動物だったのかもしれない。
どて焼きとスジ煮込みを「同じだ」という人もいれば「違う」という人もいる。なぜ人はどて焼きとスジ煮込みを間違えてしまうんだろう。
どて焼きとスジ煮込みの違いは?
大将がどて焼きの鍋を三回かきまぜるあいだに思考をめぐらせいきなり結論に達した。アリストテレスの言う「形相」と「質料」が確定しない。量子力学の不確定原理のように実体の所在を見極めることはできなかった。
どて焼きとスジ煮込みはアリストテレスのようにカテゴリーすることはできない。むしろ、現代哲学が教えてくれるように「差異」を「差異」として楽しむのがいいのだろう。
大阪地帯を一歩出ても「どて」や「すじ」や「煮込み」のつく食べものはたくさんあり、カテゴライズしようとすると途端に収集がつかなくなる。地域がひろがれば、「もつ」という新たな参加者も加わって、部位と材料の組合せはより複雑になる。呼び名と実体とのズレもさらにずれまくる。ソウルフードの特質をよくあらわしているといえる。
30センチ歩くと特徴が変わってしまうパプアニューギニアの昆虫の生息状況にも似ている。隣のまちに行くといきなり通じなくなることもある沖縄のしまくとぅばもそんな感じだ。どて焼きと呼べばどて焼き、スジ煮込みと呼べばスジ煮込みになるのかもしれない。
どて焼きの外見的特徴は?
どて焼きは、串にさされて出てくる場合もあれば、小皿に入って出てくる場合もある。スジ煮込みは、小皿に入って出てくることが多いが、串にさされて出てくる場合もある。串にささっていても、小皿に入っていても同じどて焼きなんである。
どて焼き@てんぐ | Flickr - Photo Sharing!
新世界のジャンジャン横丁(まち)にある串かつ屋「てんぐ」のどて焼き。これぞどて焼きという感じがする。串かつを食べる前にまずはどて焼きを頼みたい。
余談だが「てんぐ」にはうずらではなくたまごの串かつがある。東京からきたU君は、たまごが一個ささった串かつになぜかびっくりした。うずらのたまごが大好物だったのである。「うずらじゃなくて大きな大きなたまごが串にささっとるぞ。どうなってるんだ大阪の串かつは!」「しらんがな」と答えたいところを我慢して「すべてがうずらというわけじゃないさ」と答えることにした。うずらのたまごが大好きなU君は深く安心した。
どて焼きなう!o(^▽^)o | Flickr - Photo Sharing!
小皿に入ってでてきても、これもどて焼き。こんにゃくが入っている場合もある。「串と皿の違いだろ?」 ポイントはそこにはないのである。一番のポイントは「ネギ」がのっているかどうか。ネギの味覚というのは強いので、ネギを含めて食べるというのは、構成材料のハーモニーを味わう食べ方になるのである。どて焼き原理主義者のなかには、ネギの味覚は邪魔なので、ネギなしを頼むひともいる。ネギは薬味なんである。
このタイプのどて焼きといえば、西九条の「こばやし」だろうか。こばやしは「スジ肉」に近い部分のどて焼き。
どて焼き初体験!んまい (^^) | Flickr - Photo Sharing!
どて焼きがつくられている様子。ここは「てんぐ」かな。このように四角い鉄板のうえで白味噌とみりんでたぷたぷに焼かれているのがどて焼きだと思うのだが、かなりの老舗で、丸いずんどう鍋で煮込んだのをどて焼きと言っている場合もある。どて焼きは鉄板で焼かれる場合もあれば鍋で煮込まれる場合もある。大阪のどて焼きは、店の顔なので「これがウチのどて焼きや」と言われてしまえば、やはりそれはまごうことなき「どて焼き」なんである。
どて焼きの材料的特徴は?
どて焼きの材料であるスジはアキレスの部分で正式には「牛スジ」。アキレスがついたお肉は「スジ肉」。「牛スジ」と「スジ肉」の違いをしっかりおさえよう。アキレスよりなのかお肉よりなのかで材料のバリエーションが生まれる。同じ牛スジでもアキレスへのお肉のつき具合で味と風味が変わる。
どて焼きを頼んだら、アキレス100%なのか、お肉が少しついているのか良くみてみよう。通のなかにはアキレス100%を好む人も多い。個人的には少しお肉がついていた方がアキレスの部分がほわっと感じられておいしいような気がする。これは完全な好み。おでんでも「牛スジ」が入っている場合もあれば、西成のおでんのように「スジ肉」が入っている場合もある。西成おでんのアテはビールではなく白いおにぎりがよくあう。
串かつの人気店「八重勝」のどて焼き。「八重勝」と「てんぐ」はとなりあっていて、どちらかというと八重勝が並んでいる。これはほぼアキレス100%ではなかろうか。もう少し通天閣側に行ったところにはアキレス100%のどて焼きがある。アキレスは白く半透明の完全に均質な部分なので、仕上がりは無機質な感じがする場合がある。色々と食べ歩いてみると自分の好みが分かってくる。
八重勝 (やえかつ) - 動物園前/串揚げ・串かつ [食べログ]
どて焼き | Flickr - Photo Sharing!
これはお肉がついた牛スジを使ったどて焼き。こんにゃくも入ってる。個人的にはスジ煮込みと呼びたい気がする。味が濃くてごはんがあいそうな感じがするでしょう。見た感じでは、味つけは、みそよりも、砂糖、醤油、牛脂が前面にでていそうだ。次のリンク先にスジ煮込みの事例が出ている。お肉屋さんが定義するスジ煮込み。
味つけに関しては、どて焼きが砂糖、白みそ、みりん、スジ煮込みは砂糖、醤油、しょうがといった感じだろうか。となると、少なくとも醤油系味つけのどて焼きはないような気がする。名古屋のどて焼きには赤みそである八丁みそが入っている。どて焼きは白みそだと思っていたのでびっくりした。そもそも名古屋のどて焼きは、牛スジじゃなくて、豚もつだから、大阪とはまるで別物なんだけども。
関西だけで売っているムック本かもしれないが、比較的、老舗の酒場がおさえられていた。アルコールでやられた記憶の整理に役立てたい。「あれ? ここ前にきたんとちゃうやろか」なんていうボケはなくしたい。訪問店には小耳にはさんだ極太油性マジックでグリグリと印をつけておきたい。
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