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アーキペラゴを探して

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【新国立】「工期短縮27点差」の検証と「審査員7人の専門分野」を確認 / 隈研吾氏案と伊東豊雄氏案の比較レビュー(その6)

新国立競技場

新国立は隈研吾氏のA案に決まりました。

しかし、伊東豊雄氏が工期短縮のテーマで27点差がついたことに納得がいかないといったニュースがありました。

headlines.yahoo.co.jp

「どうしてこういう結果になったのかと、かなり疑問を持っております。(工期短縮の採点で)30点近い差は、極めて不可解だと思っております。」とまで言い切っています。*1

日本のトップ建築家の発言であるだけに重いものがあります。

このもやもや感は何だ?

ようやく新国立の設計者や施工者が決まったというのになんとなくもやもやします。確かにあの点数差はよくわからないものがありました。(審査の検証記事はこちら

前回のエントリーで2つの案の比較レビューは終わりの予定でしたがすっきりしないので延長です。

このエントリーでは審査員の発言をもとに、実際の提案書で「工期短縮」がどのように表現がされていたのか検証してみたいと思います。

また、伊東案でA案に匹敵するような内容がないのか確認してみました。

加えて、この施工性を審査した審査員の簡単なプロフィールや専門もチェックしてみました。 このもやもや感がすっきりするといいですね。

 

目次

 

 1.審査員の説明と隈案の表現

 審査員委員長の村上氏の説明です。

審査委員長の村上周三東京大学名誉教授は「『本当に短縮できるのか』という点で、両者の差が大きかったということです」と明かした。

(出典:新国立A案採用 隈氏デザイン「8点差」決定の舞台裏 (スポーツ報知)

完成時期はともに同じですので、工期短縮において、A者の大成建設の方が、B者の竹中・清水・大林JVよりも信頼性が高かったということです。

 

村上氏による27点差がついた理由です。(元記事の説明部分も含めています。)

その理由を村上委員長は「ヒアリングでの回答などから(B案の方が)不安要因が多かった」と明かす。大成建設はザハ案の旧計画でスタンド工区を請け負う予定だったことが奏功した。資材置き場、準備工事などの課題へ「既に十分な労働力を確保していた」と文科省関係者は明かした。

(出典:新国立A案採用 隈氏デザイン「8点差」決定の舞台裏 (スポーツ報知)

 

 同じような理屈であれば、B者には今回の最も難しい工事である屋根工事を旧計画で担当していた竹中工務店が入っているということができます。

ただ、工事ヴォリューム的には大成建設の方が多いので、その通りだとはいえます。それであれば、大成建設が入っている方が勝つということにもなってしまいますが。

 

隈氏と大成建設による説明です。

隈氏は、デザインについての説明で、工期の短縮について言及。観客席の部分は3層で構成されているが「全て同じ構造とすることで、コストと工期を抑えることができます」と主張した。施工を担当する大成建設の山内隆司会長も「工場で製作したものを現地に持って行って組み立てる形を取る。(パーツを)同断面にすることで、スピードアップを図ることができます」と自信を見せた。

(出典:新国立A案採用 隈氏デザイン「8点差」決定の舞台裏 (スポーツ報知)

パーツをすべて同じものにすることや工場製作をアピールしています。確かに説得力はあります。

提案書でこの部分の表現を見てみましょう。

 

A者提案書(工期の部分から) 

f:id:nobujirou:20151223192541j:plain

 出典:JSC

 「同心円・同断面の計画によるサイクル施工で2019年11月末の竣工を実現します。」

この見出しで工期短縮のコンセプトが表現できています。上から下まで同じパーツでくるくると確実につくりあげる強力なイメージが伝わってきます。着実に完成させる確実感があります。審査員がA案の工期短縮は確実に可能であると判断したのもうなずけます。

一方、難所である屋根工事はどうでしょうか。

提案書を読む限り、ユニット化されたパーツを大型クレーンで吊上げ組み上げるというほぼ在来に近い工法となっているようです。

 

次に、B案で、A案に見られたような工夫がないか見てみましょう。(それぞれ工期短縮メニューはたくさんありますが、本質的なアイデアに限って比較しています。)

  

2.伊東案の工期短縮の工夫

工期短縮のアイデアとしては次の3つの項目が目を引きました。

 

 ①外周側スタンド躯体の優先施工

f:id:nobujirou:20151223195612j:plain

 出典:JSC

パーツで組み立てるというのは、A案と同じですが、B案の場合、屋根の早期着工にかかれるように外側を優先して施工する考えが記述されています。

次は屋根工事です。

②超大型重機による複合ユニット工法

f:id:nobujirou:20151223200024j:plain

出典:JSC

図の左側は、屋根のパーツですが、中に人が書かれているため、その巨大さが分かります。このパーツを超大型重機で中央の写真のように吊上げます。それで、外側から内側へと施工する手順が説明されています。

日本を代表するスーパーゼネコンである竹中工務店、清水建設、大林組のJVならではの大技です。実現していれば工事期間中の見所となったでしょう。

もうひとつあります。

 

③自立工法による工期短縮

f:id:nobujirou:20151223200621j:plain

出典:JSC

通常、こうした大屋根の施工には仮設の柱が必要となります。構造的に安定するまで支えるわけですね。新国立競技場は地上何十メートルも高いところに屋根がありますので柱も巨大となります。B者の工法では、外観ファサードに取り付けられた屋根を引っ張るバックスステイにより、その仮設の柱をなくすことができます。それにより工期短縮をはかります。

ちなみに、このバックステイは正面の巨大木柱と構造的にセットで機能し、構造デザイン的な美しさを表現します。

 

確かに、イメージ的には工期短縮のコンセプトがシンプルな分だけA者に確実感があるような感じはします。B者の工期短縮は技術力に依存している印象はあります。

が、27点の差があるようにも思えません。提案書の検討密度もB者の方がA者よりあります。

A者工程計画のページ

工程計画

工期1/3

工期2/3

工期3/3

B者工程計画のページ

工期

 しかし、これは印象論ですので、専門家の知識に裏付けれたジャッジが重要となるわけです。 記者会見後、審査委員の村上氏は次のように述べています。

 

 JSCの村上委員長は、会見後、FNNの取材に対し、「例えばだが、『(B案は)新技術が入っているけど、本当にできるのか』という声があった」と話した。出典:www.fnn-news.com: 新国立競技場 「A案...

 

新技術が何を指しているのか定かではありませんが、おそらく、上述した「自立工法による工期短縮」を指している可能性はあります。 

こうした技術や挑戦は評価されないというのでしょうか?

「下町ロケット2」を熱心に見ていた影響でそう思ってしまうのかもしれません。

阿部寛扮する佃航平の熱い語りが頭から離れてくれません。審査員に佃航平が入っていれば、結果はまた違ったものになったのかもしれません。

そこで、今回の審査員がどういう方たちであったのか少し見てみましょう。

  

3.審査員7人の専門分野は?

 JSCのページに審査員のリストがありました。 

審査員名簿

 

以下のような方になります。そうそうたるメンバーです。

 

1.秋山 哲一 /東洋大学教授

研究テーマは、住宅産業、建築生産、建築経済ということです。国土交通省関係の委員もされています。

参考1:秋山 哲一 (建築学科) | 東洋大学研究者情報データベース

参考2:KAKEN - 秋山 哲一(30111917)

 

2.工藤 和美 建築家/東洋大学教授

建築家の方です。シーラカンスK&Hの代表で学校建築のスペシャリストですね。ウェブサイトを見る限りスタジアムの設計経験は確認できませんでした。

参考:Coelacanth K&H Architects Inc. | Profile


3.久保 哲夫/東京大学名誉教授

研究テーマは、建築構造(特に、鉄筋コンクリート構造)、地震工学、耐震工学、強震動評価、災害軽減工学、防災工学です。旧建設省の研究員もされていました。

参考:東大久保研究室のホームペイジ

 

4.香山 壽夫 建築家/東京大学名誉教授

建築家の方です。文化施設を多く手掛けれられています。スタジアムの設計経験は確認できませんでした。

参考:香山壽夫 - Wikipedia

 

5.深尾 精一/首都大学東京名誉教授

研究テーマは、建築計画学、建築構法の研究となっています。国土交通省の審議員もされています。

参考:深尾 精一 - 研究者 - researchmap

 

6.村上 周三/東京大学名誉教授

審査委員長です。研究テーマは、計算流体力学、人体周辺環境、建築・都市環境工学、地球環境工学、サステナブル建築です。日本建築学会や国土交通省要職を歴任されています。

参考:村上周三 - Wikipedia

 

7.涌井 史郎/東京都市大学教授

 造園家の方です。サンデーモーニングにコメンテーターとして出演されている方だと思います。

 参考:涌井雅之 - Wikipedia

 

以上が7人の審査員です。以下は気になった点です。

 

審査員に施工の専門家はいたのか?

間違っているかも知れませんが、少し気になりましたのは、この審査員のメンバーの中に、純然たる建築施工の専門家はいないのではないかということです。

建築生産を研究されている方はおられますが、国家プロジェクトレベルの「大規模施設の施工」というテーマでは、どの程度ご専門なのか。よく分かりません。

別の言い方をすれば、この審査員で、勝敗を決めることになった「新技術に関わる施工」が本当に評価できたのかという疑問が生じてきます。(判断できなかった可能性もあり、そのため確実性を選んだというのは選択としては理解できます。)

 

もうひとつ疑問が生じました。

 

審査員にスタジアム施設の専門家はいたのか?

このあたりもどうも不明な感じです。簡単に調べただけですので、実際にはスタジアム施設の経験者がいるのかもしれません。

 ただ、こうした方たちのまわりには、当然、ブレインが何人もいるでしょうからそうした意見も参考にしたのではないかと思います。そして、このクラスの専門家になりますと、すべての分野に明るいことも考えられます。

 

市民目線的には、次回からは、施工の専門家やスタジアムの専門家を審査員に加えると、こうした疑念も起こることなくすっきりするのではないでしょうか。 

少しだけもやもや感は晴れたのではないでしょうか。どうなんでしょうか。

 

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*1:ザハ氏についても言及されていますが、このエントリーではスルーして、工期短縮のテーマに限定してみていきたいと思います。

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