出典:San Francisco school adopting gender-neutral bathrooms - SFGate *1
サンフランシスコの小学校で、男女別トイレを段階的になくしていこうという試みが9月の新学期からはじまっています。この小学校にいる8人のセクシャル・マイノリティの児童への対応ということです。
校長先生の発言です。
生徒全員に安心感を持ってもらいたいだけではなく、全員が一様に平等であることを理解してもらいたいとの狙いもある
児童を無理にどちらか一方のジェンダーに特定する必要はないという考え方です。
全米の学校ではトランスジェンダーの児童、生徒、学生への処遇を改善する動きがあらわれはじめています。そうした一連の動きのひとつです。
誰も人間を区別する必要なんてないんだ
出典:http://www.huffingtonpost.jp/2015/09/14/miraloma-elementary-school_n_8133434.html
こう言っているのは、この学校の一年生、アリ・ブレヴァーマン君。一番上の写真の左がアリ・ブレヴァーマン君です。右がエラ・ブレヴァーマンさんです。アリ君とエラさんは双子です。アリ君の性別は未確定で男性として認識されることを望んでいます。
出典:Gender Neutral Bathroom Signs - Custom Signs
ちなみに一番上の写真に写っていますトイレのピクト(サイン)は、男女共用トイレのピクトですが、ジェンダー・ニュートラルのサインでこうしたものも使われています。過度期な感じもしますが。
ABCの動画つきニュースのリンクです。
Miraloma Elementary in San Francisco makes bathrooms gender-neutral | abc7news.com
保護者から冷静な歓迎の声
セクシャル・マイノリティや支援する人たちから歓迎の声が上がると同時に、この8人の児童の保護者からは冷静な意見も出ています。
要するに家のトイレと同じようになるわけね
大騒ぎするようなことではないというわけです。この小学校のトイレは数年内にすべて男女共用になります。
これまで通常トイレにあった区分を廃止するわけですから反発の声もあがります。このニュースを報じるNBCの女性キャスターは「なんてことでしょう!」と顔をしかめています。
反対のデモまで起きている学校があるようです。
セクマイの利用に反発のデモ
ミズーリ州ヒルズボロのヒルズボロ高校では先週、髪を長くし女装したトランスジェンダーの生徒が女子用のトイレや更衣室を使ったことに抗議して女子生徒約150人が授業をボイコット。さらに親たちも抗議デモを行うという騒ぎがあった。
出典:http://www.sankei.com/premium/news/150920/prm1509200021-n2.html
この騒ぎは、教育委員会の3人が辞任する事態に発展しました。特にミズーリなどのアメリカ南部は保守的な考えが強いところですので、LGBTに理解の高い西海岸とは事情が違うようです。
ここで一つの疑問が上がります。
ユニバーサルデザインのトイレ(多目的トイレ)じゃだめなの?
セクマイの生徒さんは、日本でもあるユニバーサルデザインのトイレ(多目的トイレ)を利用するわけにはいかなかったんでしょうか?
実際、今年の6月にシアトルでは市長が市内にある個室タイプのトイレをすべて男女共用にする条例を提案しています。*2
当然、このミズーリの高校でも男女共用トイレを用意していました。しかし、一部のトランスジェンダーの生徒がこれに満足できず、教育委員会に直談判し、女子トイレを使用することを認められたようです。許可が出たため使ったところ、一般女子生徒から猛反発が出たということです。*3
ここが本質的なテーマなんですが、セクマイだから一部設けてある男女共用トイレや多目的トイレを使えというのは、セクシャル・マイノリティ本人からしてみれば二重の差別にあたるのではないかと思います。自分を女子として認識していて、女子トイレが使えないというのは自由の制限に他ならないからです。男女共用トイレを一部設けるだけでは、バリアーは解消されません。つまり、自分は女子だから、女子トイレがある限り、女子トイレが使いたいのです。
こうしたアメリカでのニュースを受けて、ヤフーでは意識調査を行っています。
ヤフー意識調査:男女別トイレの廃止、どう思う?
米の小学校で、男女どちらの性にも合致しない生徒がいることに配慮し、男女別のトイレを段階的に廃止する取り組み。あなたはこの対応についてどう思いますか?
現在の結果(9月22日17時現在)がどうなっているか見てみましょう。
出典:http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/18902/result
ヤフーの意識調査は、新国立競技場の時も首相や関係閣僚の判断材料として利用されています。官僚の方たちが政策をつくる時の根拠資料のひとつとなります。充分パブリックなんですね。
個人的には「東京オリンピック開催時にあわせてジェンダー・ニュートラルトイレは必要か」といった前振りがあってもよかったのかなと思います。「おもてなし」ですので。
参考までに、はてなブックマーク数を見ますとブクマ数0となっています。(少し前だとこうした社会的課題にはブクマがついていたんですが……)期限は今日中ですので関心がある方は回答してみましょう。
【ヤフー意識調査へのリンク】
男女別トイレの廃止、どう思う? - Yahoo!ニュース 意識調査
ジェンダー・ニュートラルという思想的背景
こうした男女共用トイレを越えて男女別トイレ撤廃の動きは、一部のセクシャル・マイノリティの過度な要求ということではなく、アメリカでジェンダー・ニュートラルの思想が広がっているからだと個人的には理解しています。
ジェンダー・ニュートラルというのは、男女の性差にとらわれない考え方や行動様式のことです。少し前まで女性は看護婦さん男性は看護士さんと呼ばれていましたが現在は看護師さんという呼び方が定着しています。ジェンダー・ニュートラルな三人称として「he」でも「she」でもなく「ze」も使われはじめています。「they」の単数形なんですね。
日本では、ジェンダー・フリーという言葉は昨今、この言葉をめぐって混乱と誤解が生じたことから使われなくなりつつあるようです。*4
トイレについては、ジェンダー・ニュートラルの他に、オール・ジェンダーとかオール・ニュートラルといった呼び方もします。
ファッションでもジェンダー・ニュートラルの流れ
呼び方やトイレだけでなく、ファッションでもジェンダー・ニュートラルな流れが出てきています。
今回の男女別トイレ廃止のニュースも、グローバルなジェンダー・ニュートラルの流れと関連づけて考えるべきではないかと個人的には思います。
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たしかに「要するに家のトイレと同じようになるわけね」と保護者が語ったように、社会をひとつの家と考えれば、トイレを男女別に分ける必要はなくなります。
しかし、男女トイレの区別は男女の身体構造の違いから必要があって分けられている側面もあります。一番の解決はトランスジェンダーが自分が利用すると考えるトイレを利用しても社会として理解を示すということが大事なのではないでしょうか。そうしたケースでミズーリ州で問題が起きてしまったので堂々めぐりの意見ではありますが。根本的なところでは、区別や差別でなく理解しましょうとしか言えない部分もあるわけです。
セクシャル・マイノリティへの理解が進まなければ、ジェンダー・ニュートラルの思想は児童段階から時間をかけて革命的に広がっていくだろうと個人的には考えています。