「京都国際写真祭」は毎年やっている展覧会。今年のテーマは「TRIBE−あなたはどこにいるのか?」。(5月10日まで)
はてなニュースでも紹介されていました。
京都の歴史的・近現代的建築で「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2015」開催 4/18~5/10
各会場に展示されたTRIBE(部族)の写真を見ることで、現代的なトライブとしての自分の立ち位置を確認しようという主旨。それぞれのトライブへのリスペクトが差別や紛争をなくすことにつながると主催者側では考えているようです。
なんと、この京都国際写真祭 2015、展示会場が15カ所に分散しています。限られた時間で見終えるためには、各会場を効率的に廻る必要があります。
すでに通しのパスポート2500円を購入。理屈より何よりも夕暮れまでに15会場を廻りきらなくてはいけないのです。元を取るために。
烏丸御池の御池ビルを出たのが午後三時。案内と地図を見ながら戦略を立て、Gショックをストップウォッチモードに変更しスタート。夕暮れまでに全会場を廻って団栗橋(どんぐりばし)にたどり着きビールを飲みたいと思います。
最初に向かったのは、烏丸御池近くの展覧会場。はたして、どのようなTRIBE(部族)の写真を見ることができるのでしょうか。
1.ジャズメン : 嶋臺ギャラリー ⑤
最初の部族は、ジャズメン。コルトレーン、マイルス・デイビス、セロニアス・モンクの一度は見たことのあるようなないようなポートレートが数多く展示されています。レコードを聴けるコーナーもあります。
庭に面したコーナーもあったりして、ここだけゆっくり見ていたいなあという気がします。最初から誘惑に負けそうになります。
嶋臺(しまだい)ギャラリーの外観。こんな京都の古い建物が会場になっているので、京都ならではの展覧会なんですね。
出口に500円で本格的なモノクロポートレートが撮影できるマシーンが置いてあります。試しに撮ってみたところ自分でもびっくりするほどカッコいい写真が撮れました。これはかなりおすすめです。どんどん時間が過ぎていきます。
14ヶ所の会場は歩いて廻ろうと思えば廻れる距離。時間を稼ぐために、次の虎屋ギャラリーへは、地下鉄を使いました。
二駅先の今出川で降りた方が近いんですが、丸太町で降りて御所横を歩くのがおすすめ。御所に面して、感じの良いホテルが幾つかあるのもポイント。写真はザ・パレスサイドホテル。一泊6000円ぐらいから。場所を考えるとリーズナブルなホテル。泊ったことはありませんけど。
2.サムライ : 虎屋 京都ギャラリー ① (無料)
次の会場は虎屋ギャラリーで、サムライ族。兜や鎧を身に付けた古い写真が見れます。写真で見るサムライは映画や時代劇で見るより小柄ですけど、より強そうな印象。サッカー日本代表の長友がたくさんいる感じ。ギメ東洋美術館のコレクションから(http://www.guimet.fr/fr/)。
横で見られていた方が一枚の写真を感慨深げに眺めていました。「慶喜(よしのぶ)はんですなあ」お連れの方が「すぐ分かりますなあ」と答えました。「いやいや」と突っ込んではいけません。現代の京都でとくに気をつけたい部族は「白足袋族(しろたびぞく)」なんですね。お坊さまやお茶やお花の人たちですね。逆らってはいけません。覚えておきたい京都のTIPS。
ギャラリーの横には、とらやの菓寮が。 御所からの風に吹かれてとらやの暖簾が揺れています。ここでお茶したら気もちいいだろうな。しかし、前に進まなくてはいけないのです。
東京の会社の役員が、京都の会社に打合せに出向く部下にズシリと重い羊羹を「いいから、持って行きなさい」と持って行かせる笑い話があります。とらやの羊羹というのは、いかにも東京のお土産っぽいんですが、創業は京都なんですね。部下以外は、分かっているんですね。
3.自然に向かう部族 : 有斐斎 弘道館 ②
次に向かったのは、とらや近くの「有斐斎 弘道館」。ここは、江戸中期からの学問所で、現在も活動中。(公益財団法人有斐斎弘道館)ルーカス・フォーリアが撮影した自然のなかで自給自足し、暮らす人々の写真が展示されています。自然に向かう部族です。
興味がある方は、リンク先のルーカス・フォーリアのサイトで、展示されていた写真を見ることができます。儒学の学問所で、裸族に近い人たちの写真を見ることでなんとなく内容が際立つような感じがしました。
http://lucasfoglia.com/a-natural-order/
歩けない距離ではないのですが、地下鉄で元の烏丸御池に帰り、次の会場に向かいました。スタートは、烏丸御池を起点に廻ると分かりやすいと思います。みやこ中心部から廻って、祇園方面の花街に移動するようなイメージです。
4.アラスカの人々 : 誉田屋源兵衛 黒蔵⑦(無料)
次の会場は、マルク・リブーの撮影したアラスカの写真です。マルク・リブーは写真家集団マグナムのメンバー。シャネル・ネクサス・ホールの企画。
PHOTO EXHIBITION - CHANEL NEXUS HALL - CHANEL GINZA
土間や通り庭を抜けると、倉を現代的に改修したギャラリーがあります。展示された写真の間にマルク・リブーの言葉も幾つか貼ってあり、個人的にはツボにはまりました。特に印象的な言葉をメモしました。
美しい風景を眺め、写真を撮ることは、音楽を聞くこと、詩を読むことに似て、生きる支えになる。(it actually helps you to live)
そうでしたか。そういう意味があったんですね。シンプルな言葉で表現されているけれども、誰も語っていないような言葉。全部廻れなくても良いから、少しペースを落とそうと思いました。
5.パンクス&スケーター : 無名舎⑧
無名舎という京町屋で、パンク族とスケーター族です。撮影したのは、山谷佑介という期待の写真家。yusukeyamatani 一緒に過ごしたトライブの写真。基本的に作品自体の写真を撮ることはできませんが、感じが分かるインタビュー記事がありました。
Tomo Kosuga 写真界の暗黒超新星 山谷佑介が世に送り出す夜闇の世界 | 山谷佑介 インタビュー
この無名舎という建物は、一目したところ、普通の京町屋なんですが、意外と通好みの町屋で、様々な意匠やディテールを楽しめると思います。入った瞬間、ここは来たことあるなと思いだしました。三井ガーデンホテル京都別邸の真正面ということもありますが。祇園祭もこのあたりからスタートするはずなんでやはり由緒ある場所なんですね。
午後3時に出発して、現在は6時ちょうど。3時間経過。次に予定していた「花洛庵(野口家住宅)」は6時までなので、もう間に合いません。展示会場によって開場時間がまちまちなので気をつけたいところ。一応、考えて廻ったつもりではありましたが。アートというのは、やっぱりゆっくり見るものですからね。
6.murder : ギャラリー素形 ⑥
あたりが暗くなりはじめました。ノ・スンテクによる韓国での軍事演習や軍事ショーの風景。
突き放したような乾いた表現で停戦状態にある朝鮮半島の状況が切り取られています。タイトルは「reallyGood, murder」。 ガラスに映った作品を写せば作品自体を撮ったことにはならないと思う?
疲れたのでティーブレイク。カフェインとブドウ糖を補充しなくてはいけません。ここは2009年にオープンしたお菓子屋さん。コーヒーを頼んでしまいましたんですけんども、やはり日本茶ですわな。
ちなみに虎屋は室町時代後期の創業で記録にあらわれるのが1586年。個人的に好きなのは、全人類必食の「鍵善のくずきり」。初夏に向かう今の季節が一番おいしい。行ったことのないひとはぜひ行ってほしいお店です。
鍵善良房
http://www.kagizen.co.jp/kissa/
ここで、会場の位置を確かめてみよう
下に貼ったのは、 会場の地図です。タイトルにある丸番号は地図中の番号になります。⑤→①→②→⑦→⑧→⑥とめぐったわけですが、距離が分かっていだだけましたでしょうか。上京や中京という都の中心地を歩きまわりました。やはり時間があれば歩ける距離ですね。どの会場からでもスタートできます。
とっぷりと日も暮れたようです。次の会場は、コム・デ・ギャルソン④a。
ギャルソンの店舗の中に映像作品があるようです。服に目移りして集中力が途切れます。良く見れませんでした。本体は、堀川御池ギャラリー④bみたいですがもう終っているようです。ロジャー・バレンは二会場に分かれています。14作家15会場ということなんですね。ロジャー・バレンの世界ということで、たいへん見たいものがありましたが。京都市役所前広場へGO。
7.フエゴ諸島諸先住民 : 京都市役所前広場 ③
絶滅した先住民の貴重な写真。儀式や祭礼で身体にほどこすペインティングが多種多様で、見ていて興味がつきません。フエゴ諸島諸先住民であるセルクナム族、ヤマナ族、カウェスカー族の三部族の写真。マルティン・グシンデ撮影。
出典 http://www.kyotographie.jp/portfolio/martin-gusinde
マルティン・グシンデ[セルクナム族の通過儀礼ハインにて、道化師ウレン役]、1918-1924, ca : Martin Gusinde / Anthropos Institut / Editions Xavier Barral

Begegnungen aufr Feuerland. Selk'nam, Yámana, Kawesqar. Fotografien 1918-1924
- 作者: Martin Gusinde
- 出版社/メーカー: Hatje Cantz Verlag Gmbh
- 発売日: 2015/04/01
- メディア: ハードカバー
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会場でも売っている写真集。これはかなり欲しい。
会場の建物は、建築家 坂茂氏による仮設建築。紙構造ですね。次は鴨川を渡って、祇園へ。
8.テディボーイズ&ガールズ : ASPHODEL⑪
次は祇園の ASPHODELというギャラリー。不良っぽい少年少女の数多くのポートレート。タイトルは「イマジナリー・クラブ」。ナン・ゴールディンが好きなので、この手の写真は見飽きない。
近くのSferaExhibition⑬で行われているチェルノブイリの写真展もおすすめということなので見たいところですが終っているようです。一旦、団栗橋近くの会場へ。団栗橋というのは四条大橋の南側ひとつ目の橋です。
9.サプール:村上重ビル 地下⑭
漬物屋さんの村上重本店は分かるけど、村上重ビルは少し分かりにくい。写真のビルの地下が会場。カフェの横に階段があります。隠れ家っぽいビルですね。村上重本店
コンゴのファッショニスタ、サプールの写真と音楽によるスライドショー。「世界一服にお金をかける男たち」。色鮮やか。一枚一枚が映画のスチール写真のようです。大スクリーンで見ると、サプールの息づかいやコンゴでの臨場感を感じることができます。
出展 http://www.kyotographie.jp/portfolio/baudouin-mouanda
ボードワン・ムアンダ[バコンゴのファッショニスタ「サプール」]、2008 © Baudouin Mouanda
ギネスがつくったサプールの動画がありましたが、現在は見れないようです。いいコンテンツが見れないというのは実に残念。現在、サプールを体感できるのはこの会場です。
次の会場で、いよいよラスト。また、祇園へ戻ります。午後9時までやってるんですね。
10.海女 : 祇園新橋伝統的建造物⑫
1954年にフォスコ・マライーニにより撮影された能登の海女の写真。会場は祇園の白川南通りの橋を渡った会場。いわゆるあの通りのあの並びの建物です。
会場にも、サプールにも負けていない圧倒的な海女のパワー。日本のトライブは力強い。6時間弱で11会場を廻りました。全部の会場を廻ることはできませんでしたが、最後に日本の部族を確認することで、自分という個体と日本の部族との繋がり、地球に散らばった部族間の透明で強度ある距離感を感じることができました。
感想:TRIBE(部族)を考える現代的意味
展覧会を見ることで、明確に違う部族がいるということが実感されました。会場間の距離がそれぞれの部族の違いとして身体性に刻まれるような感じです。TRIBE(部族)は身振りや仕草、身体性を抜きにしては語れないということかもしれません。
つまり、TRIBE(部族)という認識が明確になったわけです。トライブを認識することで、差別や紛争がなくなるのかどうかは良くわかりません。たとえば、インターネットの中のトライブ、マヒカン族とミニマリスト族は、互いの認識を深めることで、いつも争ってばかりのように見えるからです。しかし、この不安定な世の中で、自分の立ち位置というか、そのよって立つところの地盤が少し強固に感じられました。それは、部族間の透明で強度ある距離感を体験的に認識できたからだと思います。
実際に展覧会場を廻ってみた価値はありました。
マイ・ベスト3
個人的なベスト3は、③フエゴ諸島諸先住民、⑦アラスカ、⑫海女です。この三つは外せないかなと思います。③、⑫のチケットは500円。⑦は無料なので、三つだけ見るとすれば通しのパスポートを買う必要はありません。ただ、近接する会場も多いので数珠つなぎに廻る可能性も高いように思います。
ピンポイントな見方になりますが、京町屋好きは、⑦アラスカ、⑧パンクス&スケーター、⑨野口家でしょうか。社会問題に関心が高い方は、⑬チェルノブイリ、⑥ギャラリー素形です。見てないものは、会場スタッフに聞いたおすすめになります。
午後9時。団栗橋近くのセントジェームスクラブ。ショット・バーですね。ジン・トニックを飲みながら、連休にゆっくり廻るのもありだったなあと今更ながら思いました。ついでながら、この周辺のおすすめこってりマイ・ベスト3を紹介したいと思います。(つづく)