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スカイブルーのゼロ 「風立ちぬ」 / 上高地帝国ホテルの図書室

上高地帝国ホテル

映画『風立ちぬ』で、主人公が山の避暑地に行き、山小屋を大きくしたようなホテルに滞在する。このホテルのモデルは上高地帝国ホテルだろうと思った。

宮崎アニメには、現実の場所や建物をモデルにしたイメージが度々登場する。千と千尋の道後温泉やポニョの鞆の浦。これらの場所は、共同温泉であったり、漁村の町並みであったり、庶民的な場所である。『風立ちぬ』での、上高地帝国ホテルは、庶民的な場所とは言い難い。最終作での微妙な心境の変化、あるいは告白を感じる。

コミック版ナウシカの最終巻に至る突き抜けた感じと密度の高さが、映画全体に散りばめられている。岡田斗司夫氏は、この作品はダンテの『神曲』を観客が読んでいることを前提にしており、難解な映画と説明する。同時に、宮崎アニメの最高傑作であるという。

Amazon.co.jp: 『風立ちぬ』を語る 宮崎駿とスタジオジブリ、その軌跡と未来 (光文社新書): 岡田斗司夫 FREEex: 本

 

ナウシカをリアルタイムで読んでいたものは、自分が作者でもないのに、これ以上のものは書けないと思ってしまったのではないだろうか。他のあらゆる創作物と較べても。風立ちぬ。二発目の弾丸は放たれるのか。

 時代背景や登場人物やスタッフの熱量やこれまでの宮崎アニメを燃料にして、この映画の中でつくられていくスカイブルーのゼロが、どのくらい疾く、美しく飛ぶのかに興味があった。 ゼロの翼のデフォルメ。ヤる気満々だ。先に飛ぶ白いメーヴェのまっすぐな軌跡は、飛行速度が分からないほど遙か高い。

 だが、ゼロの照準は、白いメーヴェに合わせられてはいない。ひとつひとつの絵がものすごいとしか言いようがないのに、決して主題化されない現象が描かれている。スカイブルーのゼロでさえ燃料。何人がこの風を受けるのだろう。

 

上高地帝国ホテルの図書室に、『ディア・ハンター』(The Deer Hunter)の訳本がある。この訳本はここでしか見たことがない。映画 ディア・ハンターは、行くとこまで行ってしまう内容なので、あまり、おすすめはできない。

ディア・ハンター

 最近、同じデ・ニーロの主演で、『キリングゲーム』(Killing Season)という映画があった。ディアハンターはベトナム戦争、キリングゲームはボスニア紛争が与える影響を描いている。製作者は『ディア・ハンター』を明らかに意識している。デ・ニーロは、森の中で、ディア・ハンターでの猟銃ではなく、ニコンを構えるから分かる。このシーンに象徴されるように、救いのあるエンディングとなる。

 

『ディア・ハンター』の訳本の巻末に訳者である真崎義博氏のあとがきがある。

 

二番目の弾丸を撃たないということは、自分の存在そのものが一発目の弾丸に左右されるということだ。だからといって、撃たずにいることは許されない。そこには、あくまでも冷静な判断力や自制、決断力、それに伴う実践への行動力が要求される。こうしたマイケルの信念は、自分の置かれた状況が正気であろうと狂気であろうと、常に一貫している。そして、そういう彼だけが、あらゆる状況をのり越えて肉体的にも精神的にも生きることを許されるのだ。

 

ディア・ハンター

 

あたなは、鹿を仕留めるのに何発の弾丸を撃つだろう?