10月13日に六本木アカデミーヒルズで「WIRED CITY 2015」が開催されます。雑誌ワイアードが企画するイベントです。
「WIRED CITY 2015」とは
2020からはじまる東京
過去に、未来に、世界に目を向け、東京の「いま」と「これから」を考える1dayカンファレンス。
公式サイト
WIRED CITY 2015「TOKYO 2020 and Beyond:2020からはじまる東京」10.13開催 « WIRED.jp
「WIRED CITY 2015」は新国立競技場が完成した2020年以降の東京の未来がテーマ。新国立競技場とあわせて東京の未来を考える良い機会ではないでしょうか。
目次
「WIRED CITY 2015」で東京の未来を考える
もう少し詳しい概要です。
年に一度のWIRED CONFERENCE。
今年は「WIRED CITY 2015」と題し、昨年に続き「都市」をテーマに行います。2020年に向けて、その先の未来に向けて、ぼくらはどんな東京を、そして社会をつくっていきたいのか。豊田啓介やダン・バラシュら世界の都市づくりを担うスピーカーたちと、東京の「いま」と「これから」を考える1dayカンファレンス。
受講料は一般が15000円、学生が5000円ですが、学生枠はすでに売り切れたようです。個人的には行きたいのですが、地方からですと結構な金額になってしまいますので。
といっても、スルーできるような内容ではありませんので、もう少しこのイベントが企画されたヴィジョンを探ってみましょう。
A.WIRED CITY 2015 のヴィジョンは?
日本版ワイアードの編集長の若林氏のインタビュー記事がわかりやすかったです。
ここ1年に限ると2020年の東京五輪の開催が決まったことは大きいかもしれません。2020年から、その先の時代に向けて新しい基盤を作らないとっていう気分は、少なくともぼくらのまわりでは強くあります。
これからつくられていく新しい東京は、恐らく今まで見てきた景色とは少なからず違うものになっていくはずで、そこで自分たちにどんなことができるのか?という問いは喫緊の課題として浮上してきている気はします。
2020年以後の東京を強く意識しているとうことです。
ざっくりと言えば、おそらくこうした背景から「イノベーション」とか「未来」といった言葉が盛んに使われているのだと思います。テレビでドローンがどうとか、アンドロイドがどうとか言われてるのは、それがわかりやすく「未来」な感じがするからなんだとは思いますが、それが具体的にどういう未来をつくっていくのかは、よくわからないです。
とはいえ、いまぼくらが大きな転換期にあるという認識が広まるのは、良いことなんじゃないかと思います。
しかし、槇文彦氏の「Anothr utopia」というフィクションでは、新国立競技場がヘテロトピアとなり、アナザー・ユートピアになる未来が描かれていました。ワイアードで描くような東京の未来は訪れるのでしょうか。
新国立という名のヘテロトピアとアナザー・ユートピア - アーキペラゴを探して
具体的なプログラムの内容を見てみましょう。
B.プログラムは?
以下が当日のプログラムになります。関連情報にリンクをはったり注記しています。 *1
PART1:NEW CODE 都市は新しい「コード」を求めている
- 「ビッグデータの建築デザイン」マリオ・カルポ(建築史家/UCL)*2
- 「建築はピクサーを求めている」豊田啓介(Noiz Architects)*3
- 「ゲームが都市を拡張する」須賀健人(Niantic)*4
- 「ヒューマンセントリック・シティ」森田 浩史(INNOLAB)*5
SPECIAL SESSION:MUSIC × CITY
PART2:NEW DEVELOPMENT 「開発」を再定義するために
- 「浅田孝というヴィジョン」豊川斎赫(建築家/建築史家)*7
- 「東京を『開発する』ということ」吉村靖孝(建築家)+ 角田朋哉(森ビル)+ 林厚見(東京R不動産)
- 「死者と共存するために」カーラ・マリア・ロススタイン( Death Lab)*8
PART3:NEW COMMUNITY 新しい都市共同体のつくりかた
- 「“議論すること”から生まれるイノヴェイション」アンティ・ソンニネン(Slush Asia )+ NOKIA *9
- 「過去と未来が出会う場所」ダン・バラシュ( The Lowline )*10
- 「街をつくるクリエイティヴ・エコシステム」ディエゴ・タンブリーニ( Autodesk )+ 豊田啓介(noiz)
- 「シティ・オブ・インテリジェンス」ジェイソン・ケリー・ジョンソン( Future Cities Lab )
公式プログラムのページ
WIRED CITY 2015「TOKYO 2020 and Beyond:2020からはじまる東京」10.13開催 « WIRED.jp
プログラム発表の記事
10/13開催の「WIRED CITY 2015」、プログラム発表! #wiredcon « WIRED.jp
このイベントに出席すれば、最近のイノベーションやロボット、未来都市の現在についての情報がほぼわかる内容となっています。
実に盛りだくさんの内容です。チケット代が安く感じられました。
どれもこれも気になる内容ですが、個人的に気になった情報を3つほどピックアップしました。イノベーションやテクノロジーではなく、オールド・メディアに偏った内容ではありますが。
C.個人的に気になった情報
マリオ・カルポ
イタリアの異色の建築史家です。建築史家がビッグワードを語るわけです。これまでの建築史家はギリシア、ローマから続くスタティックな建築や都市だけを扱ってきました。しかし、都市の実態は、消費やマーケットやメディアも含めた不可視なものなんですね。そうした意味では狭いアカデミックな領域に閉じこもるのではなくより現実的です。
マリオ・カルポ氏の著作です。

アルファベット そして アルゴリズム: 表記法による建築――ルネサンスからデジタル革命へ
- 作者: マリオカルポ,Mario Carpo,美濃部幸郎
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- 発売日: 2014/09/03
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浅田孝
丹下健三門下生の浅田孝氏です。あえて建てないという選択を選んだ建築家と言われています。すでに環境という枠組みで建築や都市を捉えていた思想が伺えます。哲学者の浅田彰氏は浅田孝氏の甥にあたるそうです。その浅田孝氏のヴィジョンを今こそ学ぶ必要があるということです。
浅田孝氏の著作です。
浅田孝氏についての評論です。
カーラ・マリア・ロススタイン
日本版ワイアード18号でも特集されていました。コロンビア大学院建築学部デス・ラボのディレクターです。 「死」をテーマとしたアーバン・プランニングを研究しています。具体的には「死者のための場所」を都市にどう配置するかという問題になります。
ワイアードの14号「死の未来」でも特集されていました。 カーラ氏の記事は、上の記事とほぼ同じですが、雑誌的にはキテるなあと思う内容でした。

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ワイアード・シティにはオーセンティックな建築家は登場しませんので、建築関係者から見ても目新しい内容ばかりで際立っています。
このワイアードの14号「死の未来」には、別冊付録として昨年のワイアード・シティのレジメがついており、お買い得な内容でした。
ちなみに、昨年のワイアード・シティはどのような内容だったでしょうか。
D.過去のワイアード・シティは?
WIRED CONFERENCE 2014のタイトルは「都市の未来を考える:TOKYOを再インストールせよ」でした。
これかの都市とライフスタイルをテーマに、 オリンピック・シティ、アート、テクノロジー、クリエイティブ・エコノミーという視点で議論を呼びかけています。
公式ページ
これに関係したところでは、東京をバイシクル(自転車)シティに変えようというのが面白い提言でした。
このようにワイアードが描く未来の東京のヴィジョンはイノベーションやテクノロジーに彩られてかっこいいんですが、実際のインフラとなる建築や都市をつくる側ではどのように捉えられてきたのでしょうか?
E.東京の過去と未来の計画は?
明治の東京計画については、建築氏家の藤本氏が書いています。基本的には西洋の考え方の輸入です。
比較的新しいところでは丹下研究室の東京計画1960が有名です。東京湾に海上都市を拡張しています。代謝と拡張を原理とするメタボリズムという思想です。モダニズムの考え方です。
出典:東京大学丹下健三研究室 東京計画1960.
森美術館で比較的充実した内容の回顧展がありました。
メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン | 森美術館
最近ではメタボリズムの代表的建築である中銀カプセルタワーの存続問題がまた再燃しています。エアビーアンドビーで海外から人気に火がついたようです。Xメンでもウルヴァリンが泊まる部屋に使われていましたよね。
「カプセルタワー」人気再燃 エアビーアンドビー、老朽ビルに光 :日本経済新聞
次は実際に東京都が描く2020年の東京のコンセプトです。
東京都政策企画局がつくる「2020年の東京」計画の全体概要です。 出典先のリンクにPDFがPDFの資料となっています。
出典:http://www.seisakukikaku.metro.tokyo.jp/tokyo_of_2020/booklet_of_2020_02.pdf
ワイアードシティで話された内容とは違って現実的な内容です。しかし、現実的にはワイアードシティ的なバイアスがかかって都市像は変化していきます。
未来予想図関係も少し見てみましょう。
2020東京予想図
2020の都市計画図や未来図は多数出版されています。
これは各方面にヒアリングしてつくられた地図のようです。

東京・首都圏はこう変わる! 未来計画2020 (日経ムック)
- 作者: 野村総合研究所
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
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これはシンクタンク作成ですね。
これは建築、都市専門誌が作者です。
別冊宝島はザハ案が表紙なのが少し痛いですが、他にも予想図はたくさんありますので、よほどこの分野は関心が高いのでしょう。出版社によってそれぞれ切り口は違います。
F.東京の未来を考えるとは
グーグルは都市問題にも関心を持っています。グーグルのラリー・ページ氏が都市問題を解決する新会社を設立したというニュースです。
次の記事は今までの建築や都市の専門家ではないところからのアーバン・プランニングです。専門領域外からの提言はこの先どんどん増えていくでしょう。
ネットの情報と物理的な空間の情報をシームレスに扱っていくことも今後重要となるでしょう。そうなりますと、これまでの建築家や都市計画家だけではやはり扱えない領域なんですね。
多極化する都市像のディアスポラ
ワイアード・シティのような新しい都市像に触れていて、少し気になりますのは、従来のような統合された都市像のイメージがないことです。東京は1980年代ぐらいから実際にはそうだったんですが。
それでも、ヴィジョン1(東京都が描くイメージ)とヴィジョン2(森ビルや新国立競技場が描くイメージ)とヴィジョン3(ワイアード・シティが描くイメージ)の分断は明らかです。統合ではなく多極化もしくは発散もしくはディアスポラ(離散)です。
それでもインテグレーションがあるとするのなら、意外と都市をボードゲーム化するイングレスのような勢力が未来の東京を統合していくのかもしれません。
特異点としての新国立競技場
2020年以降の東京で新国立競技場が存在の強度を持ち続けるかについて、槇文彦氏はヘテロトピア的な問題提起をしています。
ワイアードが描くような都市像へと変換するためには、新国立競技場が特異点になる可能性があるのではないかと考えています。一度、物理的な建築や都市をヘテロトピアにするプロセスが必要ということになるのかもしれません。
そのための集合知となるプラットフォームは現在ありません。そうした意味でカンファレンスでは取り上げて欲しい議題のひとつではあります。
関連記事
*1: 一部工事中
*2: 建築の未来をテクノロジーの歴史に読む──異彩の建築史家マリオ・カルポの「真価」(ワイヤード) - goo ニュース / 著書:アルファベット そして アルゴリズム: 表記法による建築――ルネサンスからデジタル革命へ
*3: テクノロジーの進化は「建築」の領域を広げている:noiz豊田啓介が描く「新しい建築」 « WIRED.jp
*4: わたしがGoogleを選んだ理由 遊びが仕事のヒントに - Jukushin.com Ingressを産んだNiantic Labs、Googleから独立して新たな成長を目指す | TechCrunch Japan
*5: 未来都市を考えるイノラボが、ロボットを作って着るクリエイターきゅんくんと組んだワケ|メンズファッションニュース|GQ JAPAN スポーツをテーマにした街づくりの仕組み「エブリスポ!」が「2015年度グッドデザイン賞」を受賞 〈JCN Newswire〉|dot.ドット 朝日新聞出版
*6: tofubeats|ワーナーミュージック・ジャパン あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.15 tofubeats - 連載・コラム : CINRA.NET
*7: 書評:浅田孝―つくらない建築家、日本初の都市プランナー [著]笹原克 - 隈研吾(建築家・東京大学教授) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
*8: 死を民主化せよ:コロンビア大学院建築学部「デスラボ」の挑戦 « WIRED.jp
*9: アンティ・ソンニネンさん~小さな失敗を恐れるよりも、どんどんチャレンジしてみる:独創的なイノベーションの実現法 - WISDOM
だから「SLUSH ASIA」には若者が集まった | あなたも起業しませんか | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
*10: ダン・バラシュ: ニューヨークシティの喧騒の下にある公園 | TED Talk Subtitles and Transcript | TED.com 「仕事場でも自宅でもない『公共の場』がいまの都会には足りない」 ダン・バラシュ(THE LOWLINE エグゼクティヴ・ディレクター) « WIRED.jp