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新国立競技場【見直し方針】要点とヤフー意識調査の現況分析 / 整備計画への展望

14日、新国立競技場の基本方針が発表されました。丁寧につくられたニュースでしたが、戦後70年談話とエンブレム問題の影に隠れてしまったようです。

 新国立競技場 屋根は観客席上部だけに決定 NHKニュース 

「再検討に当たっての基本的考え方」が掲載されているページです。

新国立競技場の整備計画の再検討推進 | 首相官邸ホームページ

 

この考え方が決定された関係閣僚会議ページのリンク先です。 

新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議 

 

資料のリンク先です。  

資料1:「再検討に当たっての基本的考え方」 

資料2:これまでの意見交換について(意見を聞いた団体、人リスト) 

資料3:インターネット意識調査の状況(14日現在のヤフー意識調査) 

資料4:これまで寄せられた国民・アスリート等の声(表でのまとめ)

 

 

以下に14日に発表された基本方針の概要とレビュー、ヤフーのアンケート調査の現況分析を整理してみました。 

 

目次

 

1.見直し方針の概要

 

基本的な考え方
    1. 「アスリート第一」の考え方の下、世界の人々に感動を与える場とする。
    2. その大前提の下で、できる限りコストを抑制し、現実的にベストな計画を策定する。このため、以下の方向性で検討する。
      • 施設の機能は、原則として競技機能に限定
      • 屋根は観客席の上部のみ
      • 諸施設の水準は、オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして適切に設定
    3. 大会に間に合うよう、平成32年(2020年)春までに確実に完成させる。整備期間を極力 圧縮するため、設計・施工を一貫して行う方式を採用する。
    4. アスリートや国民の声をよく聴き、計画の決定及び進捗のプロセスを透明化する。
    5. 周辺地域の環境や景観等との調和を図るとともに、日本らしさに配慮する。
    6. バリアフリー、安全安心、防災機能、地球環境、大会後の維持管理等を十分考慮する。
    7. 内閣全体として責任をもって整備を進める。独立行政法人日本スポーツ振興センターに よる整備プロセスを当会議で点検し、着実な実行を確保するとともに、新たに専門家によ る審査体制を構築する。
    8. 大会後は、スタジアムを核として、周辺地域の整備と調和のとれた民間事業への移行を 図る。今後、政府において計画を踏まえて、ビジネスプランの公募に向けた検討を早急に 開始する。

 なお、今月中を目途に、スタジアムの性能、工期、コストの上限等を示した新たな整備計画を 策定し、これに基づき、9月初めを目途に公募型プロポーザル方式(設計交渉・施工タイプ)によ る公募を開始することとするそうです。 *1

 

以下はこの基本的な考え方に基づいた現時点の施設概要になります。

 

見直し後の施設概要

用途:スポーツ競技専用を原則(陸上競技、サッカー、ラグビー)

屋根:観客席の上部のみ

規模:8万人(サッカーワールドカップを想定、一部は仮設を検討)

発注方式:設計、施工一括方式

公募型プロポーザル:建築デザイナーと施工業者がチームを組んで応募

五輪後の運営:民間委託を含めて検討

建設工事:2016年(平成28年)12 月~2020 年(平成31 年)3 月(40 ヶ月)*2

 

ちなみに見直し前の概要は下記になります。

 

見直し前の施設概要

用途:多目的スタジアム(コンサート、イベント専用の音響設備つき)

屋根:開閉式

規模:8万人

発注方式:設計、施工分離方式

国際コンペ:建築デザイナーが応募

五輪後の運営:日本スポーツ振興センター(JSC)が管理・運営

建設工事:2015 年(平成27 年)12 月~2019 年(平成31 年)7 月(44 ヶ月)*3

 見直し前の詳細な設計条件は次のリンクになります。

http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/Portals/0/shinchokujokyo/20131211_kihonsekkeijokenan.pdf

 

 

以下はこの基本方針についてのレビューです。

 

2.見直し方針のレビュー

基本的な考え方で下線部を引いた視点に沿って見ていきましょう。(注意すべきポイントについては赤字にしています。)

 

(世界の人々に感動を与える)

これは首相が7月から度々述べています「新しい競技場を、世界の人々に感動を与える場としていきたい」という考えを受けての内容だと思われます。*4

 

具体的には何を意味するのか?

新競技場のコンセプトとして、「世界の人々に感動を与える」競技場が重要ということになります。「世界の人々」にということですから、テレビやネットを通した競技場の見え方(ビジュアル)も重要になります。実際の建築物としての競技場とテレビやネットを通したヴァーチャルな情報としての競技場の在り方が問われることになります。

実際の建築物としての競技場

アスリート第一(アスリート・ファースト)が言われてます。グラウンドは言うまでもなく、控室や更衣室のバックスペースも含めて競技者や競技関係者が最大限の力を発揮できる機能性に優れた建物であること。

今回の基本方針には発表されていないものの、仮設の方針で進んでいるサブトラックが気になるところですね。「アスリート第一」であるけれども常設サブトラックがないといった意見がアスリートから出るといけませんので、今の段階でのサブトラックの説明が期待されます。 *5

感動ということでは、実際に、競技場に足を運んだ人たちがアスリートのパフォーマンスを最大限に楽しめる会場デザイン。観客席のデザインであったり、補助的な映像装置も含めて聖火台から表彰式の演出まですべてが一体的にインテグレーションされていることです。

 

ヴァーチャルな情報としての競技場

ヤフーのアンケート調査の途中結果から、外観デザインへの関心は低下していることは明らかですが、テレビやネットで全世界に放映する時には、やはり新国立競技場の遠景・中景・近景のビジュアルは重要になります。実際には派手な印象はなくても、映像を通すと迫力がでる建物があります。そういうコストをかけずにビジュアルとして効果的に見える方向のデザインがあるのだと思います。シンプルで映像的には迫力あるデザインですね。

国民のデザインに対する関心が低いからといっても、映像を通して「日本の国力」が世界中に伝わりますので、見え方のクオリティは確保したいところです。

ちなみそういう視点で前回の国際コンペの作品を見ますと、優秀賞になったコックス・アーキテクチャーの作品は映像的にはきれいだろうなと思いました。*6  応募者はこうした方向性の建築デザインを狙ってくると思います。

 

公募型プロポーザルの技術提案テーマ

本日発表された資料によれば、予定されている公募型プロポーザルで技術提案を求める内容は、「建設コスト削減」、「工期短縮」、「維持管理コスト低減」となっています。大幅なコストオーバーの反省から一転して手堅いテーマばかりになっております。こうしたテーマを最も重要視したのはよく理解できますが、これだけのテーマでは「世界の人々に感動を与える」ことはできませんので、発表までにアンケート調査の結果をふまえながら調整されることになると思います。

同時に公募型プロポーザルの審査員候補も14日に発表されていますので、巨額工事だけに審査委員選考の透明性についても説明が期待されます。

審査委員会(委員候補)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sin_kokuritsu_kyougijou/dai3/siryou3.pdf

 審査委員会がJSC内に設けられることについてどうなんだろうと疑問を投げかける記事もありました。60億円が未回収になりそうなことを考えますとこうした疑問があがるのも理解できます。*7

 17日には初会合が行われました。

www.fnn-news.com: 新国立競技場 コスト...

 

(できる限りコストを抑制)
スポーツ競技専用によるコスト抑制

見直し後、スポーツ競技専用とすることで、コンサート、イベント用の特殊音響設備の必要はなくなりました。コンサート、イベントにも利用可能なんですが、高性能の特殊音響設備はなしということです。これでかなりのコストを抑制できます。

開閉式屋根

問題の開閉式屋根がなくなりました。この開閉式屋根の値段もさることながら、見直し前の仕様には空調設備が含まれていたんですね。屋根がありますので、熱中症対策のため冷房がいるというわけです。開閉式屋根をなくすことで座席の下から吹き出す居住域空調をなしとすることができます。

スポーツ振興機能

前の案では、スポーツ振興機能として、秩父宮スポーツ博物館と図書館、地域住民に開放するトレーニングセンターが併設されていました。規模的には15,050㎡ありました。学校ぐらいの規模です。これがどうなったか。「施設の機能は、原則として競技機能に限定」ということですから、おそらく今月末にまとめられる整備計画でなくなると予想されます。

 

ホスピタリティ機能

見直し前には、世界水準のおもてなしが実現できる VIP 席およびボックスシート、それらに付随したラウンジやレストラン等のホスピタリティ施設が計画されていました。規模的には20,420㎡ありました。これがどうなったか。これについては「施設の機能は、原則として競技機能に限定」ということですから、おそらく少なくなるものと予想されます。

 

五輪後の運営の方法

JSCではなく、民間に運営を委託する方針です。ビジネスプランの公募とありますので、単なる指定管理者制度ではないようです。民間はたくさんのビジネスのアイデアや運営ノウハウを持ち、実際の運営でも工夫と努力を重ねますから問題はないでしょう。

  

(設計、施工を一括発注し、整備期間を短縮)
設計、施工一括発注方式(デザインビルド)

ここが大きな変更ですね。設計+施工方式から、設計施工一貫方式になりました。デザインビルド(DB)といいます。官公庁の工事は、設計会社が作成する設計図を基に工事予算の見積書をつくり、施工業者が入札するという流れがほとんどです。設計会社は予算にあった設計をすることが重要ですが、ザハ氏の案は予算を大幅に超えてしまいましたので今回のように立往生してしまいました。

デザインビルドのメリット

デザインビルドでは、工事を請け負った設計施工チームが予算金額で確実につくる契約をしますので、発注者側からすれば今回のようなことはなく安全です。また、工事入札のプロセスが省けますので、工事期間も大幅に短縮できます。

 

f:id:hamada_ichi:20150814181242j:plain

出典元:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sin_kokuritsu_kyougijou/dai3/siryou2.pdf

 

上がアフターで下がビフォーです。かなり短くなりました。ただ、IOC側は、1月への新国立完成前倒し完成を要請していますので、更なるスケジュールの圧縮が期待されます。

このデザインビルド。官公庁の事例では、横浜市の新庁舎をデザインビルド方式で現在進めています。デザインビルドの特徴が分かる資料になっています。

http://www.city.yokohama.lg.jp/somu/org/kanri/newtyosya/image/0127-siryou.pdf

 

デザインビルド方式を採用しますと、入札によるコストダウン効果は期待できなくなりますが、その分、応募者に提案内容で競わせることにより、プラスアルファの付加価値を得ることができます。ウチならこれだけのもんをこれだけの値段でやらせてもらいまっせということになる見方もできますが、たんなるサービス合戦で決まるものではなく、最終的には、建物デザインの見た目だけでない、施工技術や工事マネジメント、コスト縮減も含めた総合性で優れた設計施工チームが選ばれます。

 

注意すべき点としては、最初の応募条件で建物のアウトラインはほぼ決まってしまいますので、発注者側が作成するしっかりした整備系計画や発注仕様書が重要となります。

  

ところでアンケート調査はどうなったの?

14日に基本方針は出されましたが、 現在行われているアンケート調査の位置づけはどのようになるのでしょうか? ヤフーの意識調査では初日からはっきりと傾向が出ていましたのでその結果が基本的な考え方に盛り込まれているものと推測されます。

また、上述しましたようにデザインビルドでは発注仕様書が重要になりますので、アンケート調査の結果は整備計画に反映されるのだろうと予測されます。そうした意味では、18日まで行われているアンケート調査は依然として重要な意味を持ちます。

 

ヤフーのアンケート調査の結果を少しチェックしてみましょう。

  

 

 3.ヤフー意識調査の現況分析

すでに 10万人を超える回答が寄せられています。

 

設問1:新国立競技場、魅力あるスタジアムにするためには何が必要? 

アンケート結果1

 出典元:http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/18142/result(8月13日14時現在)

 

 魅力あるスタジアムという設問では、「アスリート(競技者)にとって、使いやすい施設」にするが1位回答です。14日に発表された方針と一致しています。陸上ではサブトラックの問題がありますので、仮設の方針を出しているものの、もう少し様子をみたいところかと思います。

2位回答には、「周辺地域の調和」が来ています。これは、具体的には槇文彦氏が指摘する神宮外苑との調和を意味しています。槇文彦氏は8万人より少ない規模を主張しています。サッカーファンからしますと、将来の話だとはしても、W杯招致条件である8万人規模のスタジアムは欲しいところでしょうから、8万人規模でも神宮外苑と調和したデザインがひとつの解決になります。

3位回答には、「日本らしさ」。建物には「日本」が感じられる味つけをして欲しいということですね。それが、先端技術であるのかクールジャパンであるのか和風であるのかは、応募者からの今後の提案に期待されます。和風建築を期待する声も一部あがっているようです。

新国立は和風建築かも?「日本らしさ」を方針に - 社会 : 日刊スポーツ

 

注目すべき内容としては、「優れたデザイン、シンボル性・ランドマーク性」という回答は最下位ですね。優れたデザインの建物というのは優れた街並みには重要な要素だと思いますが、ザハ・ハディド案をめぐる騒動と顛末ですっかりスルーされるファクターになってしまいました。ひとりよがりではない、市民に理解の得られるデザインの在り方の再考が期待されるところです。

 設問1のヤフー意識調査のリンク先です。最新の結果も見れます。

新国立競技場、魅力あるスタジアムにするためには何が必要? - Yahoo!ニュース 意識調査

 

設問2:新国立競技場、コスト抑制のために何をすべき? 

アンケート結果2

 出典元:http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/18143/result(8月13日14時現在)

 

コスト抑制という設問では、「維持管理のしやすい施設」がトップ回答です。ひじょうに現実的な回答です。

一般に、建物を建てるお金(イニシャルコスト)よりも、光熱費も含めて維持管理していくお金(ライフサイクルコスト)の方が多くかかりますので、維持管理面を重要視することが全体でかかるお金(トータルライフサイクルコスト)を少なくするポイントになります。これは回答者の見識の高さを示していますので、信頼できるアンケート結果と考えられます。

反対に、関係者やメディアで騒がれていました「収容人員」についてはもっとも少ない回答でした。工事費を減らす手段として、収容人員を調整する必要はないということです。推測ですが、もし8万人規模を大きいものと感じていれば、この数字はもっと多いでしょうから、8万人規模が妥当であると考える人が多いことも浮かびあがってきます。

  設問2のヤフー意識調査のリンク先です。最新の結果も見れます。

新国立競技場、コスト抑制のために何をすべき? - Yahoo!ニュース 意識調査

 

概ね現時点でのアンケート調査の結果は基本方針に反映されているのではないかと思います。政府としては、完全を期するため、もっと多くの調査数が欲しいところだと思われます。

 

アンケート調査に今から答えるとすれば…… 

ひとつは、競技専用とか規模とか個別の方針に賛成もしくは反対を表明するということがあります。もうひとつは、整備計画や発注仕様書をまとめるにあたって、設問2の「必要な機能や施設・設備の水準について、全面的に厳しく選別する」の判断基準となるような意見が重要なのではないかと思います。

飲食やカフェなどの付属設備も必要とか、コンサート用に最低限の音響設備は欲しいよねとか、LGBT対応はするのかなどです。

特にホスピタリティ機能であるVIP施設の充実度への反応が知りたいところではないかと思います。

 

官邸の意識調査のリンク先です。(1000文字以内)

ご意見募集(首相官邸に対するご意見・ご要望) | ご意見・ご感想 | 首相官邸ホームページ

 

次の記事ではアンケート調査の判断となるポイントなどもまとめています。

 

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