都会で心に傷を負うと桜坂に来てマイナーな映画を見た。そのあとオネーサンと呼ばなくてはいけないようなおばぁスナックで時間を過ごし、いつしか傷は癒えていた。たいした傷ではなかったのだろう。こじんまりとした桜坂は那覇でのマイフェイバリットスペースだった。
その桜坂にホテルが建設中だ。桜坂ホテルは「ハイアットリージェンシー那覇 沖縄」として今年9月にオープンする。そのホテルがまたでかいのだ。地上18階300室プールつきの高層ホテル。
桜坂はこじんまりとした丘だっただけにホテルがばかでかく見える。記念にとっておいた大事なランドセルにアンドレザジャイアントが無言で直立不動している、そんな感じだ。
去年の四月から桜坂の変貌を見ていないのでどうなっているか心配になってきた。ぼくももう大人だ。見たくないものを見ないままで先延ばしにするのはやめよう。定点観測してきた結果を見届けねばならない。ようやく覚悟を決めて見に来た。
国際通りからテンブスのコーナーを右折する。もうすぐだ。おそるおそる視線をあげる。
中村屋の豚まんとコーラ2ℓをデイパックに詰め込んでピクニックに出掛けたら、大自然の中で豚まんがぺしゃんこになっていたことを思い出した。ぼくはゆるんだ括約筋にぐっと力を入れ直した。
桜坂が巨大なホテルに押し潰されそうとしている。そもそも桜坂全体のヴォリュームよりもホテルのヴォリュームの方が大きすぎるのではないか。
これはいわゆる景観問題ではないだろうか。しかし三保の松原のように、誰もがいいなと思うような景観ではなく、桜坂はぼくが個人的にいいと感じた景観なのかもしれない。桜坂近辺の意見を聞いてみなくてはいけない。
「桜坂の景観がすっかり変わっちゃいましたね。ちょっとでかくないですか」
「那覇タワーも解体されることだし、むしろ桜坂が目立っていいんじゃないかな」
予想とは違う答えに下半身から力が抜けた。
かつて桜坂周辺が文化や興行の中心であっただけに桜坂のランドマークとなっていいんじゃないかという意見だ。確かにこのホテルにより開南方向からも桜坂の場所が良く分かる。それにもう出来てしまっているのだし、ネガティブに捉えても仕方ないということだろうか。本当にいいね!と思っている可能性もある。本心は良く分からない。ひとりしか意見を聞いていないがこれ以上聞く必要もないだろう。
ぼくが聞いたウチナーンチュの答えは沖縄の突き抜けた青空のようにどこまでもポジティブだった。たとえそれが表面上であったとしても。5000%ポジティブ。とまどいつつも括約筋にありったけの力をこめてわけもなくそう思った。
関連記事