アーキペラゴを探して

デニム、ヴィンテージ、旅、レビューのブログ

北欧デザインをどう認識するべきか

アジアを旅するものからすれば、ヨーロッパは遠い。北欧となると更に遠く思える。しかし、インターネットのおかげで、北欧の話題であっても近くのことのように聞こえる。10月初旬に発表されたノルウェーの新紙幣がネットで話題になっていた。

 

CNN.co.jp : ノルウェーの「芸術的」な新紙幣、17年から利用開始

 

1:ノルウェーの新紙幣は斬新か奇抜か

ピクセルデザインの新クローネが、斬新でカッコいいという記事もあれば、奇抜すぎるというスレッドもある。

 

【未来キタ】ノルウェーの新紙幣の「デザインが斬新すぎる」と世界驚嘆、なんとピクセルデザインが採用:DDN JAPAN

 海外「この発想はなかった…」ノルウェーの新紙幣のデザインが奇抜すぎると世界で話題に | CuRAZY 

外国人「ノルウェーの新紙幣デザインが世界最悪の奇抜さなんだが・・・」 【海外の反応】 : 海外の万国反応記

 

「芸術的」・「斬新」・「奇抜」・「世界最悪」!

タイトルを見比べただけでも、まったく違う意見である。ひとつのデザインに対して、色々な意見が出るのがデザインの面白いところである。

こうしたデザインについて、良いとか悪いとかいったいろんな意見を読むのは楽しい。デザインはの良し悪しは、基本的に主観に基づくものと考えているからである。デザインした当事者たちには耳に痛い話であると思うが。

 

北欧ノルウェー新札デザインはカラフルな「海」がテーマ

 紙幣をその金額が書かれた価値として見るのではなく、ひとつのグラッフィック作品として見ることもできる。お金という元の意味とは違う見方をする人たちに共感する。

実際、はじめて見る外国のお金で、絵柄で価値判断してしまう場合がある。安い紙幣の絵柄がいい場合は、自分の手元に置いといて、悪い絵柄の高い紙幣で払ってしまいたくなる国もある。その結果、安い紙幣で財布がパンパンになる。

 

下記のサイトから、たくさんの応募作が掲載されたパンフレットがダウンロードできる。ダウンロードに10秒ほどかかるが、デザインが好きな人は見て損はない。どの作品も素晴らしく、お勧め。

ノルウェー新紙幣応募作品集

 

2:微に入り細を穿つヨーロッパ空間の伝統

この紙幣をデザインしたのは、スノヘッタという建築事務所である。建築家が、建物だけでなく、家具やインテリア用品やグラフィック、そのうえ紙幣までデザインするようである。元々、建築家はエジプト・ギリシア・ローマ文化から続く、ヒトが住む空間を統合するのが仕事なだから、色々なものをデザインするのは、自然な流れなのだろう。

 

日本でも茶室空間なんかを見ると、デザインの範囲がすべてに行きわたっている。日本でも、そうした微に入り細に入る傾向が基本的にあるのだろうが、一般的な生活空間では、ヨーロッパに比べて、こだわりは少ない。アジアでのこだわりは、どちらかというと家電やガジェット類だろう。

 

建築も同じで、ハコモノ感が突出して見える。斬新なデザインであっても、ハコモノっぽく見えてしまう。不思議だ。少し前に、明治神宮外苑に計画されている新国立競技場が巨大すぎるということで、建築家を中心としたグループから反対の動きがあったことは記憶に新しい。建築界の大御所同士が対立するという残念な結果になっている。

 

紙幣デザインまでに気を配るヨーロッパの伝統からすると、公園に建てるという、そもそもの考え方がおかしかったのかも知れない。公園にあることが長い間、既成事実だった訳だから、やっぱりそうなるよねという感じはする。実際の建築家でなくても、誰もが建築家的発想を持つべきなのかも知れない。

 

3:ノルウェーデザインの現在

新紙幣をデザインしたスノヘッタという建築事務所がどういう建築をデザインしたのか調べてみた。

スノヘッタ - Wikipedia   Snøhetta

 オペラハウスが代表作品のようである。斬新だけど、ノルウェーの風土にあっているように見える。

次のページは、スノヘッタの設計したパビリオンの空間体験ができるようなつくりになっている。これもお勧め。レクサスのサイトだけあって凝っている。


HUMAN NATURE | BEYOND BY LEXUS Magazine (マガジン) | Lexus International

 

次の記事は、いわゆる北欧デザインの話ではなく、現在進行形の北欧デザインをめぐる雰囲気と状況が書かれている。

ノルウェーの「失敗してもいい」文化、新しい北欧デザインとは?

 

4:NAVERまとめの北欧デザイン

では、ふつう思い浮かべる北欧デザインとは何か?NAVERまとめを見てみよう。ページを開くなり、ポップである、カラフルである。「かわいい」という言葉がたくさんある。これが、今の北欧デザインのイメージなのか!?


北欧デザイン - NAVER まとめ

 

 IKEAという北欧系のインテリアショップの名前を良く耳にするが、 IKEAも大体こんなイメージなんだろうか。IKEAに行ったことがないので、良く分からない。

 NAVERまとめの内容は、僕が思っていた北欧デザインとだいぶイメージが違った。建築・インテリア中心になるが、かなり独断的に、北欧デザインをまとめてみた。

 

5:極私的北欧デザイン入門

 極私的チョイスで、厳選三つのキーワードをリストアップしてみた。「アールト」・「フリッツハンセン」・「ルイス・ポールセン」。最低この三つは抑えておきたい。スーホルムカフェでミートボールを食べなくても、北欧デザイン通になれるかも知れない。

 

A.アルヴァ・アールト

フィンランドが生んだ20世紀を代表する世界的な建築家、都市計画家、デザイナー。その活動は建築から家具、ガラス食器などの日用品のデザイン、絵画までと多岐に渡る。

 代表作は、ヴィープリの図書館とかフィンランディアホールとか。スウェーデンのアスプルンドも通好みなので抑えておきたい。森の火葬場が有名。モダニズム建築の写真を見ると、しっかりしたモノづくりの姿勢が伝わってきてほっとする。

 アルヴァ・アールト - Wikipedia

 

B.フリッツハンセン

デンマークの家具メーカー。セブンチェアアリンコチェアが有名。たぶんどこにでもある。一時期、スワンチェアが欲しくて欲しくてしょうがなかった。何もない部屋に水色のスワンチェアだけ置きたかった。僕もミニマリスト志向だったのかもしれない。EGGチェアも有名。

これらのチェアをデザインしたのがアルネ・ヤコブセンという建築家。ヤコブセンも重要。"湖の小さな町"スーホルムは、ヤコブセンが終の棲家に選んだ場所とスーホルムカフェのページには書いてある。ヤコブセンの他、いろんなデザイナーや建築家がフリッツハンセンの家具をデザインしている。フリッツハンセンとヤコブセンを混同している人がいたが、通でないことがバレてしまうので、しっかり区別しよう。フリッツハンセンと言えば、セブンチェアだからしょうがないとも言えるんだけど。

フリッツ・ハンセン 正規代理店 / REPUBLIC OF FRITZ HANSEN STORE

 フリッツ・ハンセンではないが、少し昔、ハンス・ウェグナーのデザインしたワイチェアの人気が高かったので、これも覚えておきたい。デザインが好きな人の家に行くと、置いてあるかもしれない。


C.ルイス・ポールセン
デンマークの照明メーカー。ポール・ヘニングセンによるペンダントシリーズアーティチョークが有名。百貨店でワールド系のショップにも入ってるのを見かける。欧米人は強い光に弱いので、直接光源が目に入らないように、柔らかい光をデザインしている。日本の街に氾濫する明るすぎの照明も、コントラストがあり過ぎる色彩も目に痛いという感じ。何か目に痛いよねという感覚が分かるのが北欧デザイン入門。

極論を言ってしまうと、北欧デザインとは光に対する感性の違い。日照時間が短い国ならではの。家具も曲面を多用して、光が柔らかく見えるようにデザインしている。光をせいいっぱい楽しもうと、アレコレ、アレコレ工夫したのが北欧デザインのポイントと僕は考えている。

 ホーム | Louis Poulsen

 

アレとアレが抜けているではないかという指摘もあろうが、極私的なセレクションのため、他にもたくさん抜けている。原初のラべリングと思って欲しい。少し気をつけて見れば、街中の店舗やカフェやテレビ、映画で、ヤコブセンの家具やルイス・ポールセンの照明が頻繁に使われていることが分るだろう。

 にわかではなく、インテリアや色彩センスをがらっと変えようと思えば、やはり体系的に北欧デザインを学ぶ必要がある。次のサイトは、北欧デザインの地理や歴史も抑えてあった。

  北欧デザイン情報ポータルサイト ノルディックショウケース

 

ウィキペディアの北欧デザインの記述も満遍なく書いてあり参考になる。

 北欧デザイン - Wikipedia

 

6:『ミレニアム』が覆す北欧のイメージ

いずれにしても、北欧デザインからは、やわらかさ、かわいさ、癒しといったイメージを感じる。長い間、こうしたイメージで、北欧を理解したつもりになっていた。ところが、一本の映画を見て、僕が持っていた北欧のイメージが覆された。

 

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 ドラゴン・タトゥーの女

 

この映画は『ミレニアム』三部作の第一部。ミレニアムは、女性蔑視、暴力、人権、組織犯罪、ジャーナリズム、マイノリティをテーマにした過激な内容。この続編 が気になりミレニアム三部作を全巻読んだ。途中で放り投げてしまうことも多いが、最終巻まで読み通した。この小説にノルウェー中が夢中になった。北欧の人たちに響くものがあった。僕にも響くものがあった。

 

映画に出てくる犯人の家。地上は、富裕層の典型的なヴィラ風モダンデザイン。地下は、吊具まで備えた殺戮部屋となっている。この家のイメージが強烈だった。

 

 この家は、物事は表面だけではないことを教えてくれる。それはどんなことでも同じなのかも知れない。北欧デザインを遠い国の夢のようなイメージで捉えていた。北欧も社会福祉の進んだ国ぐらいの認識しかなかった。

どこでも、ひと皮、切り裂けば、新鮮な血が噴出するのは同じようである。良く外国人が表面上だけの理解で、着物を着たり、安易に日本の文化を取り入れると言うけれど、我々も北欧デザインに対して同じことをしている可能性がある。それは、他国の行事も含めて、他のことにもあてはまるだろう。今年のハロウィンが少し気になったということもある。