アーキペラゴを探して

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物足りなさの美学 / いつもの香港

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何度目かの香港で撮った写真を見ると、自分で撮った写真なのに、何も伝わってこない。どこにピントが合っているのか良く分からない写真もある。どうしてこのような写真を撮ったのだろう。

 

アジアを旅する人達は『深夜特急』 の冒頭部のように、早い段階で、香港に行くことが多い。最初に香港に行った時は、中国返還前だったこともあり、英国コロニアルな雰囲気とアジア特有の熱気のバランスに強く惹きつけられた。

 

同じ感動が味わえるかと、以後何度か行ってみたが、殆どは期待外れに終わった。香港のまとわりつくような湿度とけだるい既視感。感動の再現はなく、物足りなさにつきまとわれることになった。

 

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写真はレパルスベイ。香港中心部から30分程の海辺のリゾート。何もすることがなければ、ベランダというカフェでお茶にするのもいいかも知れない。

 

 何度目かの香港で、レパルスベイに行き、この物足りなさの正体に気づいた。一度この物足りなさの感覚に気づいてしまうと、 実は、始終この感覚につきまとわれて生きてきたことが分かる。それは、楽しませてくれる退屈しのぎのコンテンツが少ないということではない。高度情報消費社会では、あらゆるコンテンツが消費できない程溢れている。むしろ、コンテンツを消費する時間がないことを前提とした選択が重要となっている。

 

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 この物足りなさの感覚というのは、ヒトも含めた生き物が本来持っている感覚であり、DNAに刻まれていて、なくすことはできない。この物足りなさの感覚が飢餓感になったり、際限のない欲望に変化したりして、生き物を動かしてきた。


コンテンツによる刺激が消え去った後、埋めることができずに残っている感覚があると思う。例えば、面白い映画を見て、その余韻が覚めると、また違う映画を見てしまうことがある。それは、満たされない物足りなさの感覚に気づくからである。本当に映画が好きな場合もあるが。人は物足りなさ、別の言葉で言えば、渇愛を埋めるために、外界に刺激を求める。それがカラクリ。

 

だんだんと、この物足りなさにも馴れ、今ではこの感覚を楽しむこともできるようになった。ミニマリストが感じる、物がないことの気持ち良さの境地には至っていないが、外界の刺激に左右されないという気持ちの在り方は共通している。

 

外界の刺激を心の栄養素のすべてとするよりも、物足りなさを肯定し、この感覚そのものに充実感を得ることはできないのだろうか。人が本来、無限に持っている物足りなさの感覚を楽しむことができれば、外界に刺激や楽しみを求める機会を減らすこともできるだろう。

 

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デヴィッド・フィンチャー監督が『セブン』の後に撮った『ゾディアック』という映画がある。迷宮入りとなった実話に基づく映画で、主演三人がシリアスキラーを懸命に追いつめようとするのだけれど、結局かなわない話。全編、物足りたりなさの感覚に貫かれている。退屈で気だるい進行に、人によっては、見続けるのは苦痛かも知れない。

 

しかし、これがあって、こうなって、こうなった的な筋書きより、ポイントが抑えられていない物足りないプロットに味わいを感じる。消費社会では、物足りなさがネガティブな感覚として扱われるのは当然だが、もう少し、物足りない感覚に価値を置いても良いと思う。

 

登場人物は、どの人物も華々しいことは全くない。しかし魅力的に見える。DVDジャケットの主演三人の表情がまた物足りないのである。物足りなさの美学を体現している。本当の犯人と思われる男でさえ、世界の不条理に飲み込まれ、何もかも良く分からないといった物足りない表情をしている。

 

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 ゾディアック 特別版

 

 今年の春から、ベジタリアン並みの食事制限があり、香港を楽しめる要素は完全になくなった。それでも、香港デモのニュースは全てチェックしてしまうし、トラベラーズノートスターフェリー仕様はコンプリートしてしまった。香港を特集したハナコに何が書いてあるのか気になったり、東京で香港ミニチュア模型展が開催されるというニュースを読むと、変わりない熱気にあてられて、オッ、これは、と思ってしまうのが、自分でもおかしい。

 

もう種あかしは済んだし、結果も分かっているけれど、香港的な何かというか、外界の様々な事物は、これからも僕の物足りなさを刺激し続けるだろう。

 

 

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