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アーキペラゴを探して

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LGBT差別は許されるのか(「LGBT差別を許容したい」という記事をめぐって)

先日、「LGBT差別を許容したい」というオンライン英会話会長のブログが話題となりました。表現の自由から、LGBT差別を許容したいといった主旨の記事です。

問題となった記事です。

LGBT差別を許容したい - (ウェブ魚拓)  *1  *2

たしかに言論の自由は憲法で保障されています。ブログの筆者が差別を許容するのは、表現の自由が何よりも大切なものだからと考えているからです。

しかし、言論の自由があれば、差別は許されるのでしょうか? 少しこの問題を考えてみたいと思います。

目次

 

 1.あれっ? なんでヴォルテール? 

ブログの筆者は記事のなかで、表現の自由を象徴する言葉として、ヴォルテールの有名な言葉を引用します。

“I disapprove of what you say, but I will defend to the death your right to say it”
(私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る)

この名言が引用されているのを見て、あれっ? と思いました。

ヴォルテールがこの言葉を語ったとされる時代背景を少し考えてみる必要があります。 *3

ヴォルテールは啓蒙主義のフランスの哲学者で、現在につながる民主主義の基礎をつくったうちの一人と言われています。 

 

ヴォルテール

ヴォルテール - Wikipedia

ヴォルテールさんです。ヴォルテールさんは、市民の人権を獲得するために、当時、絶対的な王政や教会の権威に立ち向かった人です。

ヴォルテールさんの名言には「人権を守る」というメッセージも含まれています。ですので、この名言を、被差別者の人権を侵害する可能性のあるモノ言いに、引用するのは適切ではないんですね。

もしブログの筆者が、ヴォルテールさんの名言の背景を詳しく知って、正しく理解していたならば、こうした考えには至らなかったのではないかと思います。

時代背景から独立して、この名言がひとり歩きしているためにこうした誤解が起きてしまったのではないかと推測されます。

社会的な立場のある方ですので、人権問題にもう少し関心を深めていただくことが大事ではないかと思います。

 

もう少し、ヴォルテールさんの啓蒙主義関係で、表現の自由や人権についての問題を考えてみましょう。

 

その後、ヴォルテールさんをはじめとする啓蒙主義は、フランス革命の成果となって結実します。その成果というのが、いわゆる「人間と市民の権利の宣言」です。「人権宣言」とも言われています。

人間と市民の権利の宣言 - Wikipedia

 

しかし、ここで言う市民は「男」のこと指していて、「女」は対象に含まれていなかったんですね。 

誰が命をかけて女性の人権を獲得したのか?

この時期、女性の権利を獲得するために戦った人のひとりに、オランプ・ド・グージュさんがいます。

オランプ・ド・グージュ

オランプ・ド・グージュ - Wikipedia

オランプ・ド・グージュさんは、フランス革命の2年後である1791年「女性の権利宣言」を発表します。女性にも男性と同じだけの権利を主張したのでした。

しかし、時の為政者ロベスピエールを批判したために、1793年処刑されてしまいます。そして、女性は政治活動を禁止されてしまうのでした。

オランプ・ド・グージュさんこそ、表現の自由と本当の人権を獲得するために、命をかけて戦ったのだと言えます。*4  

オランプ・ドゥ・グージュ―フランス革命と女性の権利宣言

オランプ・ドゥ・グージュ―フランス革命と女性の権利宣言

 

 

 このようなことからも、ヴォルテールの名言は人権を侵害するような言説には使えないことがおわかりいただけたのではないかと思います。 表現の自由でも人権は侵害できないと考えています。

しかし、実は、このブログには、いいことを言っている部分もあるんです。それは「差別は寛容しない」という部分です。実は、ここが注目すべきポイントなのです。

 

「僕はLGBT差別に寛容ではない 」

 このブログ記事の骨子となる部分を引用します。 

LGBT差別反対、というメッセージを発する企業も多い。
しかしここであえて、LGBT差別を許容したい、と僕は言いたい。
ただし誤解しないでほしい、僕はLGBT差別に寛容ではない。
許容するが寛容ではない。

 難解だったのは「許容するが寛容ではない」という表現です。この表現が、ネット上で混乱を招いてしまったようです。すでに説明しましたように「差別を許容したい」というのは、表現の自由を誤解したことによる間違った結論です。

誤解した部分を取り去れば「僕はLGBT差別に寛容ではない」というシンプルなメッセージになります。だから、この部分にアクセントをおいて読めば、大事なことを語っているとも理解できるわけです。

また、この「寛容」ということについては、ヴォルテールがこの概念を用いました。ブログの筆者が、差別を許容したいけど「寛容」ではないと書いたのは、ヴォルテールを意識してのことではなかったかと推測されます。

 

次に、ヴォルテールの言う「寛容(トレランス)」を少し見てみましょう。

 

2.ヴォルテールの「寛容論」ってどうよ?

 ヴォルテールは、広く世の中に、特に為政者側に「寛容」の大事さを語りました。表現の自由を担保するようなこともあったかもしれません。

しかし、ヴォルテールが書いた「寛容」という本のなかで、ある条件では寛容ではないと言っています。それは「法」に反した場合です。  

寛容論 (中公文庫)

寛容論 (中公文庫)

 

 

法に反している場合は、牢屋に迷わずぶちこめとまで言ってるわけです。特にユダヤ人に対してはヴォルテールは不寛容極まりないものがあり、そんなこと言うんだったら、海に放り込むぞ、このやろうなんてことまで書いています。

だから、ヴォルテールの考えによれば、法に反する場合は、どんな言動も許容することはできません。それが寛容でないということです。

寛容、不寛容、どっちやねんとお思いになるかもしれません。その後、不寛容まじりの寛容は過熱した正義感となり「正義論」に発展します。*5

 

もし、問題の記事が、ヴォルテールの名言を前提にするのであれば、差別が許容できるかできないかは「法」の支配によるということになります。

日本では、LGBT差別は禁止されるまでには至っていません。ですので、弁護するわけではありませんが、法律的にはブログの記事にあるような差別を許容したいという言い方も可能になるのかもしれません。 

大事なのは「寛容でない」と言った時、じゃあどうするのかということです。それは、LGBT差別を法的に禁止するのかという問題になります。

法律的にはLGBT差別も許容されるのかもしれないのだけれど、僕は差別には寛容ではないので、LGBT差別禁止の法整備に尽力したいと書いていれば、問題はなかったのではないかと思います。

 

では、法律でLGBT差別の禁止されている国はどこかあるのでしょうか。

 

3.LGBT差別を禁止している国ってあんの?

まず、同性愛が合法とされている国を見てみましょう。

f:id:hamada_ichi:20151014142538j:plain

出典:国・地域別のLGBTの権利 - Wikipedia

青色系統で塗られた同性愛を合法とする国です。

さらにLGBT差別の禁止にまで進んだ国は、EU加盟国全てとオーストラリア、米国(州別)になります。だから、こうした国では問題となったような言説は基本的に許されていないのです。

反対に、赤黄系統で塗られた国が同性愛を違法とする国です。同性愛で禁固刑や死刑になる国もあります。このことから、何が差別で何が差別でないのかは、時代や国の状況によって恣意的なところがあります。

また、国連でもこうした法整備は進められていますので、現時点の日本の市民レベルでは、国連の考えを参考にするという考え方はあるのではないでしょうか。

 

4.日本のLGBT差別禁止法はどうなってんの?

最後に日本の法整備がどうなっているかみてみましょう。今年になって、LGBT当事者たちからLGBT差別を禁止する法律制定の提言がありました。

「ゲイっぽい」はNG、市民団体「LGBT差別禁止法」を提案

5月の記事です。まだはじまったばかりです。

社説:性的少数者 人権守る法整備検討を - 毎日新聞

毎日新聞も法整備の必要性を社説にしています。

この動きの中心になっているのがLGBT法連合会です。

公式サイト

LGBT法連合会

 

こうした動きは各自治体が条例レベルで制定を進めるとともに、代議士レベルでは、今年、超党派の国会議員連盟が発足したところです。

2020年オリンピックでの対応も視野に入れています。呼びかけ人には、文部科学省の馳大臣もいますので、馳大臣の強力なリーダーシップのもと、飛躍的な前進が期待されるのではないかと思います。

性的少数者の差別解消へ国会議連 五輪視野、超党派で:朝日新聞デジタル

 

いつLGBT差別禁止法を制定するの? 今でしょ!!

 

人権擁護法案はどうするのか?

LGBTだけではなく、もっと広く人権に配慮した法整備が必要と考える人もおられるかと思います。そうした声にこたえて進められているのが「人権擁護法案」です。

人権擁護法案が整備されますと、その分、言論の自由は制限されますので、こうした法整備に反対の人たちも多いのではないかと思います。なかには成立しなくなるメディアも出てきますので、慎重に議論を続けて行くべき法案だとは思います。

しかし、法整備でしか対処できないという時代がいずれ来るのかもしれません。

 

関連書籍 
現代思想 2015年10月号 特集=LGBT 日本と世界のリアル

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 今月号の現代思想の特集は「LGBT 日本と世界のリアル」。今年はLGBTブームなのだという。LGBTのなかにも様々な対立があることも語れている。LGBTといったときに閉じられてしまうマイノリティとしての問題もある。国家や優良企業をブランディングする表象として利用される場合もある。LGBTの理解が進む一方で社会統制強化の懸念もあるともいう。それらはいったいなぜなのか。

 

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*1: 現在は削除されお詫びの文章が掲載されています。しかし、言論の自由とその責任はセットで考えられるべきものです。10月8日に投稿したブログの内容について|レアジョブ英会話 会長の日記 ~ Chances for everyone, everywhere. ~   

*2: 元記事URL:http://ameblo.jp/netpipeline/entry-12081846754.html 

*3:ヴォルテールが、この言葉を語ったという証拠はありません。

*4: パリにオランプさんを記念したオランプ広場ができたのは2003年になってのことでした。

*5: 寛容 - Wikipedia  

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