当初より、新国立競技場のデザインに異を唱えていた建築家がいたという
ニュースがありました。槇文彦氏です。
「建築家ひと筋」だった槇氏が、真っ先に国家プロジェクトに異議を唱えたことに多くの建築家は驚きを隠さなかった。だが、だからこそ意気に感じ、多くの賛同者が集まった。
東京新聞:新国立 計画白紙 国動かした建築家の一念:政治(TOKYO Web)
槇氏の書いた論文のリンクです。なぜこの計画に問題があるのか論理的に語っています。
新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える(P10-15)
http://www.jia.or.jp/resources/bulletins/000/034/0000034/file/bE2fOwgf.pdf
また、オリンピック後の在り方の重要性を早くから指摘してきました。
そこで槇氏の代表作を幾つか選んで紹介します。個人的な見方と関心で、「人と街が主役」、「孤高の表現者」、「大空間の作法」の三つのテーマに分けました。
目次
A.人と街が主役
人と街の風景を良く考えてつくられていると思います。人がいて風景が立ち上がってくるような建築だと思います。*1
1.ヒルサイドテラス(I期-Ⅵ期)/ Hillside Terrace
ヒルサイドテラスC棟(1973年)です。
ヒルサイドテラスG棟(1992年)です。
G棟の夕方の風景です。代官山の風景は槇氏の建築が先導しつくりあげてきました。東京都民の視線を持った世界的建築家です。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト(トップページは槇氏のスケッチになっています)
HILLSIDE TERRACE|Official Site
2.スパイラル(1985年)/ Spiral
個人的には槇氏の代表作だと思います。エントランスの上が斜めのぎざぎざになっていますが、ここが内部では緩やかな階段になっていて、人の動線とあわせてデザインされているんです。
代官山もそうなんですけど、この空間を実際に体験することで、建築のデザインや風景が立ち上がってくるんです。空間体験とデザインが切り離せないレベルで結びついているんだと思うんです。
内部のスパイラルホールです。東京に行ったときはこうした展覧会によく行きました。もし安藤忠雄氏が言うように、記憶に残るのが建築ならば、個人的には青山のスパイラルになります。
槇事務所
施設公式サイト
3.名取市文化会館(1998年) / Natori city cultural center
メタルの壁面の下方に、すっと一文字の水平窓がかっこいいです。これを見ると、小堀遠州の孤篷庵を思い出します。現代建築なんですけども、どこか日本的な印象もあります。重力感を軽やかにする方向でデザインしているような感じです。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
4.霧島国際音楽ホール(1994年) / Kirishima International Concert Hall(Miyama Conseru)
霧島国際音楽ホールです。ホール部分の屋根が特徴的です。これは鹿児島県公式HPの写真です。人によって捉える印象が変化するような屋根です。コンサートへの期待感がダイヤモンドの煌めきのように高まります。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
5.テレビ朝日本社ビル(2003年) / TV Asahi Headquarters
これはお馴染みですね。毛利庭園をバックに……。モニュメンタルなテレビ局建築の在り方へのアンチテーゼとなっているような感じです。*2
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
http://www.tv-asahi.co.jp/hq/index.html
6.51アスタープレイス(2013年) / 51 Astor Place
アスタープレイスのクラッシックな建物がカーテンウォールに映りこんでいます。槇氏のデザイン意図をしらなくても、思わず撮ってしまったような写真です。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
B.孤高の表現者
7. 名古屋大学豊田講堂(1960年)/ Toyoda Memorial Hall, Nagoya University
最初の作品である名古屋大学の講堂です。名大のシンボルとなっています。エピソードの多い建物です。
1960年にはコンクリート打放しによる建築表現をつきつめています。新鮮な感じのするコンクリート建築です。
槇事務所の作品紹介
8.京都国立近代美術館(1986年)/ National Museum of Modern Art, Kyoto
岡崎の美術館です。鳥居のスケール感とこの美術館がいかにマッチしているかは京都人なら良く知るところです。京都らしく1.5mの格子グリッドで設計されています。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
京都国立近代美術館 | The National Museum of Modern Art, Kyoto
9.東京キリストの教会(1995年)/ Tokyo Church of Chris
ドラマ「協奏曲」で木村拓也氏が設計した教会の舞台となった教会です。
室内はダブルスキンの外壁から柔らかい光で満たされます。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
東京キリストの教会 | Tokyo Church of Christ
10.風の丘葬斎場(1997年)/ Kaze-no-Oka Crematorium
大分県にある葬斎場です。こうした施設ではグンナール・アスプルンド&シークルド・レヴェレンツによる森の火葬場(ストックホルム)が有名です。*3
陰の空間にスリット光が断続的に差し込んでいます。
冥福を祈る静謐な空間です。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
某メールマガジンの指摘が間違いであったかどうかはあえて問う必要はないのではないかと思います。
C.大空間の作法
11.幕張メッセ(1989年)/ Makuhari Messe International Convention Center
2020東京オリンピックでも使われる幕張メッセです。フェンシング、レスリング、テコンドーの3つの競技会場となります。巨大な空間なのにひじょうに軽やかな印象の建物です。隣接して新展示場もあります。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
12.東京体育館(1990年)/ Tokyo Metropolitan Gymnasium
新国立競技場の敷地に並んであります。普通の体育館と違って圧迫感がありません。これが槇氏のこの敷地に対する考え方なんですね。なぜザハ案の70mの高さのヴォリュームを問題にしたのかこの写真から理解できます。
正面です。ミレニアム・ファルコン号みたいでかっこいいですね。新国立競技場のニュースで敷地横に上から見た東京体育館が映っていますが、折り紙でつくったお面を想像してしまいます。
東京体育館の航空写真:https://goo.gl/maps/Hfmbi
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
13. 朱鷺メッセ / 新潟コンベンションセンター(2003年) / Nigata Convention Center "TOKI MESSE"
出典元:朱鷺メッセ – 藤木鉄工株式会社 鉄骨橋梁製作メーカー
都市スケールの洗練されたデザインです。船をイメージしてデザインされています。
出典元:http://emc.nhdr.niigata-u.ac.jp/tiems2014jp/venue.html
スケールが大きくなればなるほど、存在を消す方向にデザインされているのかもしれません。その傾向は、次の4WTCでより顕著になります。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
14.フォー・ワールド・トレード・センター / Four World Trade Center, 4 WTC(2013年)
テロで崩落したワールド・トレード・センター跡に、新たに建てられた4WTCです。槇氏が設計者として選ばれました。大きなスケールの建物をオブジェ的にデザインするのではなく現象的にデザインしています。槙氏の考えるモニュメントが表現されています。
4WTCの57階のテラスです。ガラススクリーンに1WTCが映っています。アメリカ人に印象深い風景を日本の建築家がつくりだしています。
槇事務所の作品紹介
施設公式サイト
*
槇文彦氏の心象にはどのような新国立競技場のイメージが映っているのでしょうか。
ただ、槇氏のスタンスは次の記事のように一貫しています。
質疑応答では、槙氏がデザインを担当すべきとする声が上がっていることについて再三にわたる質問があったが、当の槙氏は「(コンペに参加する気持ちは)ありません。今までとスタンスを変えるつもりはありません」と、これまでと変わらず、自らが整備計画にかかわっていく考えを否定した。
槙グループ、新国立問題計画見直し「初期の目的果たした」 - Yahoo!ニュース
一方、ザハ・ハディド氏を扱ったニュースは、白紙になった現在でも流れ続けています。ザハは完全に白紙になったのでしょうか。少し気になるところですね。
新国立競技場「やっぱりザハ・ハディドが必要です」元ゼネコン社員から見た混乱の原因
槇事務所の公式サイトです。ここで紹介していないたくさんの優れた作品を見ることができます。
追記
9月16日、槇文彦氏がザハのデザインが責められる傾向に対して「ザハ・ハディド氏は犠牲者だった」と語ったニュースがありました。一部引用します。
ザハ・ハディド・アーキテクツ、施工予定者、4社JVの3者の関係をもっとはっきりさせることが重要だったはずだ。ザハ・ハディド氏のデザインだけが問題視されてきたが、設計を引き受けた4社JVの責任も大きい。
しかし、日本側の設計者は悲しんでいるのか、喜んでいるのかまったく分らないまま、現状に対して沈黙を保っている。こんなことでよいのだろうか。社会に対して彼らは説明責任があるはずである。
以上は、私の個人の意見というよりも多くの建築家、識者の気持ちを代表した意見であることとして了承していただきたい。
10月6日に自民の行革推進本部からの提言についての記事です。槇氏の最新のオープン・スペース論についても触れています。
槇文彦著作 ・作品集
新国立競技場、何が問題か: オリンピックの17日間と神宮の杜の100年
- 作者: 槇文彦,大野秀敏
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2014/03/27
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (4件) を見る
a+u (エー・アンド・ユー) 臨時増刊 槇文彦の近作 2012年 07月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: エー・アンド・ユー
- 発売日: 2012/06/22
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログ (1件) を見る
建築関連記事
新国立競技場に登場した5人の建築家のまとめ記事です。
戦後の建築70年史とあわせて見ると理解が深まります。
安藤忠雄氏の作品紹介です。
某アナウンサーは、メルマガで安藤氏をモーツァルト、槙氏をサリエリに喩えました。しかし、デザインを比較して優劣を語るのはあまり面白くない見方だと思います。それぞれの良さや面白さを積極的に見出していくのが楽しい見方だとは思います。
白紙になった現在も、名前が取りざたされるザハ・ハディド氏の作品紹介です。
常設サブトラックはなくなったようです。サブトラックや現在の使われ方も含め過去スタジアム事例を10件ほど調べてみました。
関連記事
スポンサーリンク
年1回以上の利用で年会費が無料になるカードも多いです。
年会費無料のカードでもキャッシュバックがあるというお得なオファーとなっています。