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【新国立】ザハ氏案と隈氏案は本当に似ているのか / 隈研吾氏案と伊東豊雄氏案の比較レビュー(その7)

A案選定後、伊東豊雄氏はインタビューで、採点疑惑の他にもうひとつ耳を疑うような発言をしました。ザハさんから訴えられるよというものです。

表層部分は違うが、(骨格を)はぐと中身はザハさんの案とかなり近い。訴えられるかもしれないですよ 出典:新国立競技場:敗れたB案の伊東氏が指摘 A案はザハ氏に「訴えられるかも」 - 毎日新聞

 たしかにプランは似ているような感じもしますが、そういう可能性もあるので気をつけなさいよといった意味と理解していました。同時に、当のザハさんもインタビューに答え「驚くほど似てる」と発言していました。*1

しかし、単なる言いがかりや負け犬の遠吠えではなく、ザハさんは実際に類似性の調査をはじめたのでした。

 デザインチームが類似性について詳細な調査を開始した 出典:ハディド氏が「A案」の類似性調査

いずれザハ氏による調査結果は発表されるでしょう。法的処置は「未定」としながらも、その可能性も示唆しています。

そこで、事前に指摘されそうな点を予想し対策を練っておくの一計ではないかと思います。このエントリーではザハ氏案と隈研吾氏のA案が本当に似ているのか簡単に検証してみました。

 そもそもどこが似ているのでしょうか? 外観はまるで違います。

発表されたデザインは、われわれが2年かけて提案したスタジアムのレイアウトや座席の構造と驚くほど似ている 出典:ハディド氏が「A案」の類似性調査

 これは、いわゆるプランと呼ばれる平面図のことですね。平面図に表現される内容が似ていると言っています。ザハ案とA案の平面図を比較する形で並べてみました。(比較したザハ氏案の図面は2015年7月のものです。)

 

目次

  

 1.地下2階平面図の比較

一番地下の地下2階からの比較です。実際に競技を行うトラックがあるレベルです。この上にスタンドの階が何層にも重なっていきます。

ザハ氏案地下2階

f:id:hamada_ichi:20151224112243j:plain

出典:JSC

ザハ氏の地下2階のプランです。両サイドに、問題となった「キール構造」の基礎部分が張り出しています。

 

A案地下2階平面図 

f:id:hamada_ichi:20151224105248j:plain

出典:JSC

隈氏のA案の地下2階プランです。屋根の「キール構造」はありませんので、両サイドの張り出しはなく、きれいな馬蹄形プランになっています。

どこが似ているのでしょうか? 少し細かく見てみましょう。

細かい寸法が違うもの、柱割や諸室のレイアウトが似ていると言えば似ています。フィールドに至る通路の位置も良く似ています。ですが、これは同じ用途ですので仕方ない面もあります。

これだけでは、ちょっとよく分らないところがありますが、勇者「日刊スポーツ」がこの2つのプランを大胆にも重ね合わせてしまいました。*2

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出典:新国立はザハ案「下敷きにしてる」森山高至氏が指摘 - 五輪一般 : 日刊スポーツ

赤い線がザハさんのプランです。一目瞭然というか、内側が完全一致というか、スタジアムの馬蹄形形状がA案とぴったりと重なっているようにも見えます。

同じではないものの、ザハ氏案を参考(下敷き)にした可能性はありそうです。

 

参考までに、B案のプランも確認してみましょう。

 

B案地下2階平面図

f:id:hamada_ichi:20151224115538j:plain

出典:JSC

B案の地下2階プランです。これは全然違いますね。柱割も違いますし、プランのレイアウトも違います。ザハ氏の案とは似ていません。何よりも地下2階がすっきりして見えます。どうしてでしょうか?

A案では右下の部分は人工地盤の下で駐車場になっていますが、B案では唱歌「春の小川」を生んだ「再生された渋谷川」が流れる緑地になっています。それで、すっきりした印象がするわけですね。この右下の部分などを、伊東氏は参考にしてもいいよとインタビューで言われたのかもしれませんね。

 

次は、地下1階のプランの比較です。

 

2.地下1階平面図の比較

ザハ氏案地下1階平面図

f:id:hamada_ichi:20151224113148j:plain

出典:JSC

ザハ案の地下1階です。キール構造の基礎によって、両サイドが大きく膨らんでいます。

 

 A案の地下1階平面図 

f:id:hamada_ichi:20151224120914j:plain

 出典:JSC

A案の地下1階プランです。 地下2階のプラン同様、トラック廻りのレイアウトは良く似ています。トイレを同じ黄色で塗ったところも良く似ています

両サイドのキールがあった部分の部屋やザハ案右下のピンクの部分をA案では吹抜けにするなど、全体面積を減らす工夫が随所に見てとれます。

A案では両サイドのキール基礎廻りと人工地盤下まわりが大きく改善された印象です。

確かに、ザハ案を参考にしたのかもしれませんが、ザハ氏監修の設計案は何十億円もの国費かけた成果品であるだけに、良い部分を参考にするのは当然の考えと言えます。

法的な話を別にして、人情的な話ではザハ氏には血税16億円(訂正:13億円でした)も支払っていますので、この件に関しては大目に見て欲しいなという感じもします。

   

3.1階平面図の比較

1階といっても、人工地盤のレベルです。

 ザハ案の1階平面図f:id:hamada_ichi:20151224140316j:plain

 出典:JSC

ザハ建築のフォルムと融合するようなランドスケープデザインです。建築面積に比べて外構のスペースが少ない感じがします。

 

A案の1階平面図

f:id:hamada_ichi:20151224141207j:plain

出典:JSC

ザハ案と比べて分りやすいように外構メインの平面図を貼っています。

両サイドのキール構造がない分、外構のスペースが増えています。緑がおいしげった30年後のイメージがありますが人工地盤上なのでそれほど大きくなるわけでもないと思います。建物外周部の植栽にしても、取り換えできるプランターですので、緑に埋もれてしまうようなイメージにはならないと思います。

参考までに、B案の1階平面図も見てみましょう。

B案の1階平面図

f:id:hamada_ichi:20151224142501j:plain

出典:JSC

人工地盤の特性を考慮し、四季に合わせてきめ細かくランドスケープが計画されています。72本の柱が方位別の歳時記カレンダーなっているなど、ひな祭りや月見が行えるイベントスペースなど土着的な技巧も凝らされています。

 

4.2階平面図の比較

ザハ案の2階平面図

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出典:JSC

地上部で両サイドにキール構造が張り出す独特のプラン形状です。

 

A案の2階平面図

f:id:hamada_ichi:20151224143732j:plain

出典:JSC

地上部では整形の馬蹄形プランです。2階レベルではところどころデッキテラスが出ています。

これより上に4フロアほどありますが、2階と同じような傾向ですので省略します。変わりに断面図を見てみましょう。

 

5.断面図の比較

 ザハ案の断面図

東西面に切った断面図

f:id:hamada_ichi:20151224150055j:plain

出典:JSC

座席は3段となっています。先端に8万席増席のオーバーレイ部分をつける計画です。

南北面に切った断面

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出典:JSC

スタジアムを南北面に切った部分では座席は2段になっています。これがサドル形状という工夫です。競技場はどうしても縦長のプランになりますので、フィールドから遠く見えにくい長軸方向の一番上の座席をなくしています。競技の見え方に配慮した優れた座席計画です。

 

A案の断面図

f:id:hamada_ichi:20151218111039j:plain

 出典:JSC

こちらも座席は3段で、先端に座席増席分のオーバーレイをつける計画は同じです。

屋根はダブルの柱からキャンチレバーで持ちだしています。B案に比べると梁せいが小さく納まっています。

参考までに、B案の断面図を見てみましょう。

B案の断面図

f:id:hamada_ichi:20151218111137j:plain

出典:JSC

B案の断面です。座席は2段です。座席のオーバーレイは下段の座席に重ねる計画です。屋根は太い柱で垂直荷重を受け、外壁側のバックステイと呼ばれる鋼管で屋根を引っ張る構造です。A案に比べると根元部分の梁せいが大きくなっています。

 

公開された資料での比較はだいたいこんな感じになります。 

A案がザハ案を参考(下敷き)にしていたのは事実だと思います。中身がぴったりと一致する部分もあるでしょうし、外装や屋根などまったく似ていない部分もあります。

これが著作権侵害に当たるのかは良く分りません。通常の作品概念と違って(日本では)建築には社会的公器の役割もあるからです。(その場合、ザハ案を参考にしたことを認める必要があります。)

調査が進めば座席の設計など細かい部分について類似性が確認される可能性があります。ザハ氏デザインチームの調査次第といったところではあります。ザハ氏の出方待ちです。

 

少し気になるのが作品としてのオリジナル性です。このようなゴタゴタが続く新国立競技場が果たしてレガシーになるのかといった疑問です。

作品(レガシー)としてのオリジナル性は?

1964年の東京オリンピックに建てられた代々木体育館(丹下健三氏設計)のようなオリジナル性はないかもしれません。あの体育館は何もないところにオリジナルの線が一本引かれるところから出来たような建築です。ただ、近代のオリジナルですので現代のオリジナルはまた違ったものだと思います。

隈研吾氏の建築コンセプトである「負ける建築」は諸条件を受容する建築でもあります。この建築思想に従えば、ザハ案のベースと融合するような作られ方は「あり」です。さらに言えば、伊東氏案のいい部分を取り入れることも可能です。従来の建築家的価値観では「負ける」ような振る舞いで受容者的には「勝つ」建築です。

新国立競技場では、近代のオリジナル観とは違ったゴタゴタも含めたあらゆる条件を受容する「負ける建築思想」がレガシーをつくりあげていくのではないでしょうか。そういう意味では結果は未知数であり、近代の建築作品主義が大きく変わっていく展開点となるでしょう。

 

審査発表からウォッチした感じでは「驚くほど似てる問題」よりも「審査採点への疑問」の方が大きいように個人的には感じました。過程も含めて審査会での議事録が公開されれば、不透明感も払拭できるのかもしれません。

  

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*1: ザハ氏「我々のデザインに驚くほど似てる」(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース 

*2: 日刊スポーツと言えば「スター・ウォーズ新聞」です。今年一番読んだのが「スター・ウォーズ新聞」でした。今年は最後まで楽しませてもらいました。


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