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アーキペラゴを探して

archipelago - 群島、島嶼、多島海、そのニュース。 脱領域への考察と情報

ブルー・イン・グリーン / マイルス・デイビス『Kind of Blue』

Tsingtao Beer' Ads in Shanghai Metro 上海地下鉄の青島ビールの広告
Tsingtao Beer' Ads in Shanghai Metro | Flickr - Photo Sharing!

 

たまにはジャズも聞きたいよね、と思ってマイルス・デイビスの『Kind of Blue』をかける。3曲目の「ブルー・イン・グリーン」。東洋的な趣きのある曲。青島ビールをラッパ飲みしながら思った。ライフには迷路のようなループにはまりこんでしまう時がある。

 青島(チンタオ)に行ったのは、青島ビールの工場が見学可能と聞いたからだ。緑色のガラスびんが無数に並んでいるイメージを想像して、きれいだろうなと考えた。どうしても見たくなった。子どもの頃、なんでそんなに緑が好きなんだというぐらい緑が好きだった。昔の嗜好が突発的に出たのだと思う。

 

グリーン・イン・ブルー

その頃、好きな色は青だった。青が好きで好きでどうしようもなかった。ナポリのシャツの微妙にくすんだブルーとか見るとたまらなく欲しくなった。何枚でも欲しくなった。微妙に違う色のブルーのシャツがグラデーションで並ぶのはよだれがでるほどきれいだった。 

女狂いの血が遺伝しなくて良かったわと身内のひとりはうると胸をなでおろした。愛人とか妾が日常会話の用語だったのだ。てやんでー、女と色は違うさ、女は生物、色は無生物だろと声高らかにうそぶく身内もいた。すべてのピントが完全にずれていた。

とびきりのブルーは宮古の砂山ビーチから見る青だった。そこにしかないブルーのガラスがあると聞けばフランスのシャルトルまで出掛けた。花火が美しいのは花火自体が美しいのではなく花火が照らしだす夜空の淵が深いブルーの無限の階調をつくりだすからだ。私と青とどちらが大事なのと問われれば迷わず青と答えただろう。魔がさしたのか何なのかあろうことか緑に浮気してしまった。変態だったんだろう。

 

青島は1900年代のはじめドイツや日本に占領された。その影響でたくさんの洋館が建ち並んだということだ。教会や丘もあり緑も多い。ビーチや海もあるきれいな街。今はどうなっているか分からない。幻影のように捉えられない春霞のかかる街。

黄河のほとりをぶらついて鄭州という街から青島に着いた。そのままビール工場に行ってみた。ゲート手前の守衛所で見学したい旨を告げる。見学はできないということだった。しつこく交渉してみたが現在は旅行会社を通してのみ見学できるということだった。

なんてこった。ぼくはハリウッド俳優のようにおおげさに両手をつきあげて頭にペタッと手のひらをあてると思いきや、とっさの判断で手が着地する瞬間、なんちゃってのポーズに素早く変化させた。見よこの技術を。上目づかいに守衛の表情をチラリと見る。にやりともしない。20年前の中国はまだまだお堅い国だったのだ。
 

仕方なくゲート横の直売所でビールを飲んで帰ることにした。直売所には青島ビールの生が売っていた。ジョッキで飲む青島の生ビール。フレッシュで抜群においしい。運命のデビルと青のルシファーを出し抜いた気分だった。くすりとわらう。直売所にディスプレイされた緑のびんをひとしきり楽しんだ。完全勝利。

ネットで調べると、その工場は今では青島ビール博物館になっていて、工場見学も出来るようである。  *1 緑のびんが無数に並ぶのを見てみたい。何かループしているような感じもする。あのとき青島から帰るとすぐにケラマブルーにはまった。緩和されるかと思った症状はよりいっそうひどくなり青の10年に突入した。何かがおかしかった。

 

『Kind of Blue』をもう一回かける。よく冷えた青島のびんをもう一本あける。こんなに薄い緑色だったろうか。ハイネケンやグロールシュのびんの色と比べると一段薄い。びんの表面にふきだした水滴が気になりはじめた。青島に行ったときの記憶を正確に思いだしてみる。

 

 青島の街なかでミネラルウォーターを買うと、たいていは同じメーカーの薄いブルーのボトルだった。おいしいので何本も飲んだ。*2   ラベルには尖った峰が連なる山の姿が描かれている。崂山(ラオシャン)。道教の源といわれる山。*3  数日間で意識に刻まれていった。

帰る日にタクシーは空港まで高速道路を走った。フロントガラスを通して前方に見えてきた山の形がラベルに描かれた山とまったく同じ形をしている。崂山は空の青を映してブルーにゆらめいている。バックミラーに写った運転手の目がゆるんだように見えた。緑への想念が消える。昼が夜になるように青への情愛が戻ってきた。

ある時期の人生をブルーが確実にのみこんでいった。   

 

Kind of Blue

Kind of Blue

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